憎しみ、深く(八)

 オルコルカンで鉄仮面が行った諸々のことについて、七州[デウアルト国]においては、一部の者をのぞいて、その評判はわるくなかった。前の大公[オウジェーニエ・スラザーラ]の遺体の扱いとガーダラハールで行われた虐殺の代償を、ようやくウストレリに支払わせることができたと、溜飲を下げた者が多数であった。

 北の老人[ハエルヌン・ブランクーレ]も女たち[サレ派]も、この点について、鉄仮面を非難しなかった(※1)


 ただし、レヌ・スロがウストレリの回し者であることを見抜けず、そのために、老人の暗殺未遂が引き起こされたことを受けて、鉄仮面の責任を問う声は小さくなかった。

 しかし、これも無事に近北州へ戻った老人が不問としたため(※2)、大事にはならなかった(※3)。

 いちおう、鉄仮面は老人に対して、書状でしゅうぎょかんおよびしん西せいしゅうしゅうぎょ使の辞任を申し出たが、「このような書状を送ってくることは、公に責任感というものがない証左である。どうか、強く責任感を持ち、引き続き、ファルエール・ヴェルヴェルヴァとうばつに全力を尽くすように」と書状が返ってきた。


 カラウディウ・エギラの一件でいちばん割を食ったのはラカルジ・ラジーネだった。

 エギラがウストレリの間者であることを見抜けなかった彼に対して、素直な者たちは、ラジーネの能力を疑ったし、エギラがとうきょうであったという流言を信じた者たちは、彼が陰謀の加担者だったのではないのかと疑惑の目を向けた。

 鉄仮面は、ラジーネが必要だったので、遠いイルコアからだったが、出来る限りのことをして、彼をかばってやった。



※1 鉄仮面を非難しなかった

 ハエルヌン・ブランクーレは近北州を統一する過程で虐殺を行っており、また、サレ派は総帥であるオイルタン・サレの父であるノルセンが数度の虐殺を行っていたため、人のことを言えない立場であった。


※2 これも無事に近北州へ戻った老人が不問としたため

 一時期、ハエルヌン・ブランクーレが暗殺されたという誤報がデウアルト国中に流れたが、妄動する者はいなかった。七州の責任者はかいげんれいき、情報が事実であるのかどうか確かめてから動くことを選択した。賢明な判断であった。

 ハエルヌンのけがの状況だが、遠西州、近西州、西南州と三州の統治者たちに壮健な姿を見せつつ、急いで近北州へ戻ると、しばらくの間、寝込んだそうである。

 近北州へ戻る際、同行していたオドリアーナ・ホアビアーヌが、遠西州は素通りするべきだと上申した記録が残っている。不測の事態が起こる可能性を考えての意見であったが、ハエルヌンは後々のことを考えて、その上申を受け入れなかったとのこと。


※3 大事にはならなかった

 カラウディウ・エギラの件では叱責などを受けなかったが、オルシャンドラ・ダウロンを高く評価していたハエルヌン・ブランクーレは、その長子ノルセンの処刑の仕方と遺体を衆目にさらしたことについては、「勇者の長子に対する処遇とはいいがたく」と書状でザユリアイを非難した。

 その叱責を恐れていたズヤイリ・ゴレアーナは、ノルセン・ダウロンの身柄を近北州へ送ることをザユリアイに上申したが、「生かしておけば、移送中に家臣が取り戻しに来るかもしれない」と彼女はその献策を却下していた。

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