憎しみ、深く(七)

 話は戻るが、そもそも、カラウディウ・エギラをエルバセータからオルコルカンへ連行するのにも、じいさん[オヴァルテン・マウロ]は反対したが、鉄仮面は押し切った。エルバセータでは万一の場合、敵に奪われる可能性があるというのが、鉄仮面の言い分であった。


 オルコルカンのようさいがいにあった鉄仮面の私邸にて、エギラに対する取り調べは行われた。

 どれだけごうもんを受けようとも、七州[デウアルト国]へのぞうごんばかりを言い放ち、口を割らなかったエギラだったが、鉄仮面が水路を止めた話をして、「おまえがしゃべらなければ、要塞内の人間は皆殺しにする。おまえが話すのならば、兵士についてはしゃくほうしよう」と優しく告げたところ、彼女は自分が近づいたけんと聞きだした機密を洗いざらい口にした(※1)。

 エギラはいろいろなことを話してくれたが、その中には、大ハオンセクの毒殺が、チノー・アエルツの回し者の手によるものという重大なものも含まれていた。

 そのため、後日、「なぜ、殺さずに引き渡してくれなかったのか」と、遠北州の兵のうち、レヌ・スロに寝返った者を鉄仮面の判断で処刑したことと合わせて、ずいぶんと遠北公[ホラビウ・ハオンセク]から、彼女は恨み言をいわれた(※2)。


 レヌ・スロの一件が落ち着いたところで、鉄仮面は一度、東南州に帰ろうとしたが、側近たちに説得されて断念した。じいさんだけは「それもよいでしょう」と止めなかった。

 ノルセン・ホランクが「なぐさめてあげましょうか?」と訳の分からないを言ってきたので、鉄仮面は殺意をおぼえた。



※1 彼女は自分が近づいた貴顕と聞きだした機密を洗いざらい口にした

 この時、ザユリアイの夫であるロアンドリ・グブリエラが機密(重要なものではなかったようだが)を漏らしたことが発覚した。

 カラウディウ・エギラが嘲笑混じりに告げたため、ザユリアイの怒りに、さらに火をつけたもよう。

 なお、エギラの狂言であった可能性を指摘し、ロアンドリはエギラと寝ておらず、機密も漏らしていないという説を取る史家もいる。先輩史家に対して配慮した話かもしれないが、それを確実に否定する物証はない。

 エギラからのじんもんで得た情報について、鉄仮面は最低限のものをハエルヌン・ブランクーレと執政府に報告したのみで、その他はいんとくした。グブリエラ家のしゅうぶんが広がることを恐れたためでもあったろうが、政敵へのけんせいに使おうとしたのだろう。


※2 彼女は恨み言をいわれた

 家の恥をさらしたくなかったので、ザユリアイはカラウディウ・エギラの処刑を急いだのだろう。口封じである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る