憎しみ、深く(六)

 チノー・アエルツが攻めてくる様子もなかったので、じいさん[オヴァルテン・マウロ]は血相を変えてオルコルカンへ戻ってきた。

 「ザユリアイ・グブリエラ。一体全体、どういうことか」とじいさんは、多数の面前で、鉄仮面を叱責した。

 このために、戦勝気分に浮かれていた鉄仮面の気持ちは一気に冷めてしまった。

 じいさんは、青年のように潔癖なところがあったので、ノルセン・ダウロンやカラウディウ・エギラに対する鉄仮面の仕打ちが受け入れられなかった。

 どうにかこうにか、じいさんを書斎に押し込むと、「こういうことをしていれば、第二第三のファルエール・ヴェルヴェルヴァが生まれますぞ」と彼がかんげんをしてきた。

 それに対して、「第二第三のノルセン・ホランクを探すまでさ」と言いつつも、少しやりすぎたかなと鉄仮面も後悔をはじめていたので、それ以後はじいさんの話を素直に聞いた。

「私はの職を辞して、郷里に帰らせてもらう。もう、あなたには付き合いきれない」

 話の途中で、上のようにじいさんが言い出したものだから、鉄仮面は内心、納得していなかったが、平身低頭で謝りつづけ、「二度とあのようなことはしない」と誓わされた。


 結局、じいさんの辞職を思いとどませるのに半日を要した。

 ようやく気を落ち着かせたじいさんに、鉄仮面が「どうにかこうにか、蛇の頭の一つを潰したぞ。レヌ・スロではダウロン三兄弟の代わりは務まるまい」と言うと、じいさんが書斎の窓から夕闇を見ながら、「決戦は、近いですな」と独り言のようにつぶやいた。

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