交わる言葉、交わらない言葉(八)

 公女[ハランシスク・スラザーラ]の死を受けて、おんしゃが各州で行われた。

 そのどさくさにまぎれて、鉄仮面は小ウアスサを新西州に転籍させることに成功した。


 前の大公どの[オウジェーニエ・スラザーラ]の死に関して、ほぼひとりでその責任を負わされ、遠北州のへきに飛ばされていた小ウアスサであったが、そこで善政を敷き、オヴェイラの族長さまから娘の婿にわれるほどの声望を得ていた。

 この話はねじ曲がって都[コステラ]に伝えられ、処遇に不満のある小ウアスサが遊牧民と結託して、反乱を起こすのではないかといううわさが立った(※1)。

 それに、遠北州で自分よりも目立つ者がいることを好まない遠北公[ルオノーレ・ホアビアーヌ]の思惑もあり、小ウアスサを他州へ転籍させる話が出ていた。そこに鉄仮面は乗っかったわけである。

 小ウアスサは、遠北州の屈強な騎兵を連れて、鉄仮面の元へやってきたが、彼女としては、彼のいくさびととしての能力よりも文官としての才を買っていたので、本来は、東南州東管区の統治を任せたかった。

 それが叶わなかったのは、言い換えれば、小ウアスサを東南州に転籍させることができなかったのは、小サレの妨害があったからであった。

 小サレも小ウアスサの境遇を何とかせねばならないと考えており、いつかは自分の手元へ置きたいと考えていた。それを横から鉄仮面がかっさらったものだから、彼は北の老人[ハエルヌン・ブランクーレ]に泣きつき、東南州ではなく、新西州預かりの身とさせ、なおかつ、ファルエール・ヴェルヴェルヴァが退治されたあとは、近北州へ戻す取り決めを老人に認めさせた。



※1 反乱を起こすのではないかという噂が立った

 うわさの出どころは、小ウアスサが邪魔だったルオノーレ・ホアビアーヌとも、小ウアスサを欲しがっていたザユリアイとも言われているが、真実味のない話である。

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