交わる言葉、交わらない言葉(七)

 鉄仮面がイルコアに戻った後、七州[デウアルト国]で大きな事件が起きた。

 都[コステラ]にて、ごく一部の東夏教徒が、旧教の保護者であった公女[ハランシク・スラザーラ]の死を祝したために、東夏教徒が各州で虐殺された(※1)。

 ラカルジ・ラジーネは東夏教徒側に非があるとして、厳しく取り締まるべきだと口にはしたが、実際の行動では教徒を守ったので、みやこびとの嘲笑を買った。

 執政官[トオドジエ・コルネイア]は、「日ごろは聡い人物なのに、東夏教がからむと、とたんに目が見えなくなり、耳が遠くなる」と、ここぞとばかりに攻撃した。


 イルコアでは、鉄仮面が厳重に警戒したので、虐殺は起こらなかった。イルコア人も含めて、新西州には、けっこうな数の東夏教徒がおり、その協力が無視できないものとなっていたため、鉄仮面は気をつかったのであった。

 これらの結果により、さいきん、七州各地でまた増えていた東夏教徒たちの多くが、迫害を恐れ、比較的安全な遠西州と新西州に移り住んだので、東夏教は、両州以外では再度衰退した。



※1 東夏教徒が各州で虐殺された

 ハエルヌン・ブランクーレの厳命で、各州が抑え込むまでの新暦九三四年の十一月から十二月にかけて起きたこの虐殺は、現在、東夏教事件と呼ばれている。

 十月にコステラで起きた大火災の原因も東夏教徒のせいにされ、とくに西南州での虐殺数が多かった。

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