交わる言葉、交わらない言葉(六)

 新暦九三四年初秋[十月]、公女[ハランシク・スラザーラ]の葬儀が、夫である老人[ハエルヌン・スラザーラ]の差配で行われた。

 鉄仮面はイルコアを空けておくわけにもいかなかったので、州馭使でゆいいつ、参加しなかった。

 名代には、鉄仮面の指名通り、[オレッサンドラ・グブリエラ]が近北州より参列したので、彼女はたいへん満足した。七州に、鉄仮面の後継者が美左であることを知らしめることができたからだった。


 葬儀が終わったのち、儀式をて(※1)、娘のウザベリがスラザーラ家の当主となると、彼女と相性のわるかった小サレは、家宰の職を放り投げた。

 公女の死により、スラザーラ家とサレ家の主従関係が清算されてしまうと、女たち[サレ派]を当てにして、権力を行使しようとしていたウザベリのばなくじかれた。

 加えて、ウザベリにとってはつごうのわるいことに、相続がすむと、老人はスラザーラの姓を捨ててしまい、もとのブランクーレ姓に戻ってしまった。


 ウザベリは、早期のファルエール・ヴェルヴェルヴァ退治を声高に叫んだが、熱心に聞いてくれる者は少数であった。

 ウザベリに対する世間の対応は、七州人の公女に対するけいの念が、スラザーラという彼女の家名ではなく、ハランシスクという個人に対するものであったことを証明してみせた。


 短期間で起きた、スラザーラ家のちょうらくを目にして、多くの者はひとつの時代が終わったことを感じ取った(※2)。

 公女の死により、老人の権威はますます高まりをみせた。



※1 儀式を経て

 人の集まりが非常にわるく、ウザベリ・スラザーラは憤慨したとのこと。


※2 多くの者はひとつの時代が終わったことを感じ取った

 ハランシク・スラザーラの死を持って、ブランクーレ゠スラザーラ体制が崩れ、グブリエラ゠ブランクーレ体制(もしくは新ブランクーレ体制)が始動したと見る向きもある。

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