交わる言葉、交わらない言葉(五)

 都[コステラ]に戻った鉄仮面は、ラカルジ・ラジーネと善後策を協議した。

「みやこびとの大半は、ファルエール・ヴェルヴェルヴァの首を欲しています。しかし、それは現状、むずかしい話です。我々は彼の首をあきらめ、和平の道を目指すべきです」

 そのようにラジーネが意見を述べたのに対して、「執政官[トオドジエ・コルネイア]がヴェルヴェルヴァの首を欲しがるようになったから、そのようなことを言うのか?」と、鉄仮面は微笑とともに言葉を返した。

「まあ、軍務監。それは冗談だが、判断に迷うな。何せ、信心が絡んでいる話だからな。旧教の保護者であるスラザーラ家の当主が無念を残して亡くなられたのだ。その魂が地上をさまようままにしておけば、人心は落ち着かない。ヴェルヴェルヴァの首は欲しいところだ」

「ですが、その首を取る妙案はないのでしょう?」

 上のようにラジーネが言ったので、「今のところはな」と鉄仮面は答えた。

 それからしばらく、鉄仮面は思案したのち、「まあ、いい。我々はヴェルヴェルヴァ退治の継続に反対の立場で行こう。それは私の本心とも合致するからな」と話をまとめると、「それはわたくしも同じ事です」とラジーネがうなづいた。

「ところでさいきん、どうも、こちらの機密が、あちらに漏れている形跡があります。オルコルカン公もお気をつけください」

 「ウストレリの回し者か。まあ、敵もばかではないからな。いろいろとやってくるだろうよ。こちらのように」と言いながら、鉄仮面は、七州[デウアルト国]側の親玉に目をやった。

 それに対して、ラジーネは無表情のまま、「どうも、きな臭いにおいがします。何か変事がおこるかもしれません。繰り返しになりますが、重々、お気をつけください」と言った。

 それに対して、「何か、確証があるのか?」と鉄仮面がたずねると、ラジーネは首を振り、「いいえ。私の勘です」と答えたので、「そうか。それならば、気をつけねばな」と鉄仮面は口にした。

「しかしだ。そのようなときに、何もわざわざ、イルコアに来なくてもいいのにな。老人[ハエルヌン・スラザーラ]も」

「お気持ちはわかります。ですが、よい機会であるのはまちがいありません。うまく行けば、我々の思惑通りに事が進むかもしれません」

 ラジーネの言に「気休めの言葉だな」と鉄仮面が声をかけた。すると、「恐縮です。余計なことを言いました」とラジーネが言ったので、「まあ、いいさ。希望や期待を抱かねば、人は前には進みにくいからな。うまくいくことを願おう」と、鉄仮面は自分自身に言い聞かすように応じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る