小刀(三)

 上の報告を得意になってするノルセン・ホランクに、「あんまりいい気になるなよ。しかし、なぞの小刀使いか……。また、やっかいごとにならなければいいがな」と、鉄仮面は口にした。

 すると、「あれは処女ですね。背中をみればわかります」と妙なことをノルセンが言い出したので、鉄仮面は「おまえはすごいな」と嫌味を返した。

 しかし、ノルセンには通じていなかったようだったので、「すごく気持ちが悪い男だよ、おまえは」と、鉄仮面ははっきり言ってやった。しかし、そのように言われても、「そうですか」とノルセンは平気なものであった。


 「いい気になるなよ」という鉄仮面の言葉を右から左へと聞き流したノルセンは、オルコルカンの人妻に次々と手を出すは、飲めない酒をに飲まされて身ぐるみがされるはで、ろくなことをしなかった。

 極めつけは、自分を主役にした劇に飛び入り参加する始末であった(※1)。

 ノルセン・ホランクという人間は、いくさびとではなく、ただ腕のいいだけの曲芸師と思い込むことで、鉄仮面は何とか怒りを収めた。

 この頃から、ノルセン・ホランクのなまえを聞くだけで、鉄仮面は胃が痛くなるようになった。



※1 極めつけは、自分を主役にした劇に飛び入り参加する始末であった

 ノルセン・ホランクの活躍は、多分に尾ひれがつけられて、けんでんされた。結果、彼を主役とした演劇や小説が盛んにつくられた。

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