第二章
小刀(一)
ウストレリ軍に対して、大いくさではじめて、対等な戦いができたことに自信を持った鉄仮面は、その余勢を駆って、年内にもう一度、いくさをしかけることにした。
目的は、双頭の蛇退治であった。
新暦九三一年初秋[十月]、鉄仮面は、イルコア州におけるウストレリの最重要拠点である、州都エレシファを攻めるそぶりを見せた。
いくさのしやすい[バナルマデネ]平原にチノー・アエルツをおびき寄せるためであったが、彼が来られないのならば、エレシファを囲み、イルコア州内の反七州[デウアルト国]側に、精神的な打撃を与えるつもりであった。
鉄仮面はそのまま攻め落とすのもありだと思ったが、不要な損失を出せば、ファルエール・ヴェルヴェルヴァ退治に支障をきたすし、城塞を落とせたとしてもそれを保持する難しさを考えて、じいさん[オヴァルテン・マウロ]や側近たちは反対した。それもそうだと思い、鉄仮面は彼らの意見に同意した。
鉄仮面の動きに対するチノーのそれは早く、七州軍がエレシファに到着する前に、金蛇軍到来の知らせが彼女の元へ届いた。
そのとき、鉄仮面は側近たちと昼食を取っており、「想定より早いな」と彼女が口にしたところ、じいさんが手元の梨を鉄仮面の方へ転がしながら、「チノーは東ウストレリ内の反乱勢力を片付けつつあるのではないか。そろそろ主菜を食い終わって、菓子が気になりはじめているころでは?」と推測した。
それに対して、「我々が、最後に食おうと思っている菓子ということか」と口にしつつ、鉄仮面は梨にかじりついた。
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