悲しい生き物たち(五)

 大いくさで、金蛇軍とはじめて引き分けたことに、イルコア州だけでなく、本国の七州[デウアルト]人も歓喜したが、それにはひとつの理由があった。

 ラカルジ・ラジーネが鳥籠[宮廷]と薔薇園[執政府]に提出した報告書は、きわめてわかりにくく、一読した限りでは、まるで七州軍が大勝利を収める寸前であったと錯覚させた。詳細を何度も読み直してようやく、どうにか引き分けたという真相を理解できるしろものであった。

 ここから、過度の美辞麗句に満ちた文章のことを、「イルコア風」と呼ぶようになったが、鉄仮面の知るところではない(※1)



※1 鉄仮面の知るところではない

 報告書の作成に、ザユリアイが関わった明確な形跡が多々残っているので、この一文は虚偽である。

 のちに、文章だけではなく、服飾や邸宅なども、過度に華美なものは、イルコア風と呼ばれるようになった。しかしながら、イルコア州はどちらかと言えば、ぼくとつな土地柄だったので、州民は大いに迷惑しただろう。

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