宝刀(二)

 さて、本題のファルエール・ヴェルヴェルヴァ退たいの話だったが、最初から行き詰まりを見せていた。

 しかし、小サレの残した引き継ぎ書によると、手がかりがまったくないわけでもなかった。

 まず、野戦では無類の強さを見せる金蛇軍であったが、攻城戦は不得意なようだった。であるから、負けないいくさを心がければ、南イルコアを失うことはないように思われた。

 先の攻城戦のとき、チノー[・アエルツ]がいる際は、まともな攻め方をして来たが、何らかの理由で彼が陣を離れているときの攻めぶりは、敵ながら戦い方を教えてやりたいほど、攻め一辺倒のせつなものだったらしい。とくに、憎き大サレの子である、小サレの命を狙うヴェルヴェルヴァが差配していたときは、その傾向がひどかった。ダウロン三兄弟も似たようなものだったらしい。

 そこから、学者[ズニエラ・ルモサ]やラカルジ・ラジーネが集めた情報を加味して考えられるのは、金蛇軍で用兵家と呼べるのはチノーだけであり、ヴェルヴェルヴァやダウロン三兄弟は、武勇に優れた猛者もさに過ぎないということだった。

 金蛇軍が軍として活動するには、チノーという頭脳が不可欠であった。だが、金蛇軍が三国に鳴り響くほどの軍功を上げるのには、チノーの用兵の能力だけではむりで、ヴェルヴェルヴァとダウロン三兄弟の働きが必要であった。

 チノーとヴェルヴェルヴァらを離間させることができれば、金蛇軍は怖い存在ではないということであり、ヴェルヴェルヴァを討つことも可能となる。

 しかし、ラジーネの話によると、異国人であるヴェルヴェルヴァやダウロン三兄弟を差別することなく、他の者と変わらず接し、実力主義で引き立ててくれたチノーに対して、彼らは恩義を感じており、離間策は使えそうになかった。ラジーネからも、「それはいくら金をいてもできそうにありません。金蛇軍は皇帝のお気に入りでもありますし」との話であった。

 結局のところ、ヴェルヴェルヴァ退治を任されたときの鉄仮面には、彼を殺す有効な手立て、必殺の武器がなく、運に任せて真正面から戦い、彼を討つしかなかった。そのため、鉄仮面はあんたんたる気持ちになった。

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