四巻(九二八年九月~九三一年三月)

第一章

宝刀(一)

 新暦九二八年晩夏[九月]、鉄仮面は入京して、国主[ダイアネ五十六世]にはいえつし、しゅうぎょかんに任じられた。

 国主より、「ザユリアイ、おまえだけが頼りだ」との言葉をちょうだいしたので、「吉報をお待ちください、我が主」と、鉄仮面は根拠もないのに大きなことを言った。


 盛秋[十一月]、鉄仮面はオルコルカンようさいに到着した。

 そういう細かいところは小サレの得意なことだったので、引継ぎに、ほとんど困ることはなかった。

 鉄仮面は、問題がなかったので、「私は、今以上、民草に何かを与えるつもりもないし、新たに何かを奪うつもりもない」と、小サレの統治政策を踏襲することを宣言した。学者[ズニエラ・ルモサ]を筆頭に、鉄仮面が他州にほこる優秀な文官たちを、彼女は連れて来ていたので、委細は彼らに任せた。しかし、その際、「仕えない奴は、歩いて帰国させるぞ。馬がもったいないからな。ただでさえ、足りないのだから」とおどしはかけておいた。

 もちろん、イルコア州の統治は大事な仕事であったが、鉄仮面の第一の任務は、ファルエール・ヴェルヴェルヴァを退治することで、彼女の頭脳はそのためにつかう必要があった。

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