花の意思(十)
上のような事情で、ウストレリとの争いは、いつの間にか、鉄仮面のいくさになった。
新暦九二八年晩夏[九月]、
他州の兵の指揮も
北の老人[ハエルヌン・スラザーラ]の約束通り、三州の兵が臨時で、鉄仮面の配下として動くことになった。
それぞれの指揮官は、東部州が
近西公[ケイカ・ノテ]がオドゥアルデどのを出してくるとは思わなかったので、鉄仮面が、兵を連れて近西州を通りかかったときにたずねたところ、「実戦の経験を積ませて、早く
また、近西公は、「祖父の一件から、ご老人へはずいぶんと世話になったが(※6)、義理はこれで返し切ったと思いたい」と口にした。それに対して、鉄仮面が、「私が負ければ、次は公の番ですよ」と軽口を叩いたところ、ずいぶんと嫌な顔をされたのちに、「そのためにオドゥアルデと兵を貸すのです。よろしく願いますよ」と応じられた。
そのオドゥアルデどのは、近西公から紹介されたとき、「私は凡将ですが、みな、私のためによく死んでくれます」と、良い用兵家が口にしそうなことを言った。
※1 忌々しいことに
ザユリアイが切望していた、異母弟オレッサンドラの東南州州馭使着任が叶わなかったことを指しているのだろうか。
※2 新西州州馭使を兼任するだけでなく
新西州の権益をサレ派が失い、ザユリアイが新西州州馭使を兼務することが決まると、「女の代わりにまた女が収まった」と、みやこびとはささやいたとのこと。
※3 州馭監の地位まで押しつけられた
州馭監の地位についている間、ザユリアイは鉄仮面という通称のほかに、オルコルカン公と呼ばれるようになった。
※4 変なうわさが立たないか、やきもきした
ザユリアイは野心家と目されていたので、そのような彼女が、新西州で大軍の兵権を持つことを好まない者が少なからずおり、みやこびとの間でもさまざまなうわさが生じた。
とくに、サレ派の面々の危惧は大きかったが、小サレがうまくなだめたとのこと。
※5 近西州は左騎射のオドゥアルデ[・バアニ]どのが就いた
オドゥアルデ・バアニは、「短い内乱期」に活躍したロアナルデ・バアニの嫡男。
※6 祖父の一件から、ご老人へはずいぶんと世話になったが
ケイカの祖父が起こしたコイア・ノテの乱(八九二年九月)により、ノテ家は公敵になってもおかしくなかったが、スザレ・マウロおよび執政府のその動きを
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