花の意思(九)

 庭を去ると、回廊で小サレが、鉄仮面を待ち構えていた。

「おまえはいいな。恋しい者のもとへ戻れて」

 鉄仮面がそのように声をかけると、げっそりとせているほほをすこしゆがませてから、「ご迷惑をおかけします。本来ならば、私の手でやるべき仕事を」と、小サレは応じた。

 あまりにも気の毒だったので、「まあ、おまえだけのせいではないさ。悪いことは重なるものだ」と、鉄仮面は言った。

「わたくしにできる範囲の助力をお約束いたします。弟どのの件も……」

 小サレの言に、鉄仮面はひとつうなづき、「借りはしっかりと返してくれよ。弟の件はくれぐれもよろしく頼むぞ」と、細かいことは話し合わずに、彼と別れた(※1)。


 その後、だれもいないと思ったので、鉄仮面は髪にしていた花を抜き、床に叩きつけてから、踏みにじった。

 それをオドリアーナ[・ホアビアーヌ]が見ていて、くすくすと笑ってきたので、「あまり物知り顔でいると早死にするぞ」と、鉄仮面は忠告した。それに対して、オドリアーナは微笑を浮かべたまま、「心がけておきましょう」と答えた。



※1 彼と別れた

 その後、小サレはクルロサ・ルイセの後任として、近北州の政務を取り仕切り、金山頼みの州経営からの脱却を試みた。クルロサの政策を基本的にとうしゅうして、興業と殖産に努めた結果、一定の成果を上げた。それと同時に、サレ派総帥として自派閥の統制を強化した。

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