花の意思(七)

 ファルエール・ヴェルヴェルヴァの首に、公女は莫大な賞金をかけた。それを目当てに、またしても多くのいくさびとが、イルコア州を目指すことになった。

 和平かいくさかの事が決したあとで、明確に反戦を口にしたのは、ラカルジ・ラジーネと鉄仮面ぐらいであったろう。もちろん、一度決した、いくさの継続が引っ繰り返るとは、ふたりとも思っていなかった。ただ、それぞれの政治的な立場から、公女[ハランシスク・スラザーラ]を暗に批判した。鉄仮面は、公女の弟子のようなものであった学者[ズニエラ・ルモサ]に、公女へ書状を書くように命じたが、文は読まれることなく、鉄仮面のもとへ送り返されて来た。


 一連の敗戦、苦戦の責任およびそうさいどの[クルロサ・ルイセ]の病気を受け、小サレは近北州に戻ることになった。

 悲惨だったのは小ウアスサで、生き延びたことが罪であるかのような扱いをされた。遠北州へ転籍となり、寒く貧しい北管区へにんしていった。

 薔薇園[執政府]では、小サレの後ろ盾を失った、軍務監のオジーニェ・バエリが、みやこびとの憎悪を一身に浴びて、めんを余儀なくされた。

 替わりに軍務監となったのは、薔薇園内の反戦派と青衣党の後押しを受けたラジーネであった。勇気を出して、公女を非難したかいがあったわけである。それは新暦九二八年初夏[七月]のことだった。

 ラジーネのとんとん拍子の出世に危機をつのらせたのは、執政官[トオドジエ・コルネイア]であった。自分の地位をおびやかし始めたラジーネを、彼は敵と認め、鳥籠[宮廷]を巻き込みつつ、薔薇園内をふたつに割って、かくちくをはじめた。


 鉄仮面が難を排して、和平を口に出したのは、自分に火の粉がふりかかりはじめていることに、遅まきながら気づいたからであったが、時すでに遅しと言わざるを得ない状況におちいっていた。

 じょうちょあんていな国主[ダイアネ五十六世]に、「おまえだけが頼りだ。七州[デウアルト国]を守ってくれ」と泣きつかれるおまけつきで、ラジーネとちがって、みなと同じく、公女の権威におびえていればよかったと、後からいた。

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