花の意思(五)

 公女[ハランシスク・スラザーラ]は、鳥籠[宮廷]からの返書を受け取ると、翌日の朝には、北の老人[ハエルヌン・スラザーラ]の裏書を得るために、小サレのこんがんを無視して、輿こしに乗って近北州へ下向していった。

 先の東州公[エレーニ・ゴレアーナ]が都に着いたのは、その日の昼であった。

 小サレとしては、先の東州公に公女の後を追ってもらいたかっただろうが、薔薇園[執政府]の命令という形を取り、都へ上らせた東州公を、近北州へ向かわせるのは、彼女のちっきょが完全に解けていなかったなどの事情から、はばかられた。


 州都スグレサについた公女は、その日の宿として、鉄仮面のしゅうとどの(※1)の屋敷をあてがわれた。

 政治に関わることを避けていた舅どのであったが、七州[デウアルト国]の危機を感じ取ったのか、ウストレリとのいくさの継続について、ブランクーレ家の総意として、反対であるむねを公女に伝えた。

 「北州公[ロナーテ・ハアリウ]も危惧されております」と、同席した息子の近北公[ルウラ・ブランクーレ]が、極めて珍しいことに、声を荒げて、母親をなじらんばかりに責め立てたので、公女に多少の動揺が見られた。しかし、結局、彼女は自分の考えを曲げなかった。



※1 鉄仮面の舅どの

 まえこうどのこと、ボスカ・ブランクーレのこと。

 ボスカは伯父であるハエルヌン・スラザーラの命により、その跡を襲い、ブランクーレ家の当主となった人物。

 当時のボスカは、ブランクーレ家当主の座を、ハエルヌンの長男ルウラ(ボスカから見て従兄弟にあたる)に譲り、半ば隠居生活に入っていたが、近北州の政界において隠然たる権威を有していた。

 ザユリアイの夫が、ボスカの三男ロアンドリであったため、彼女はボスカのことを舅どのと書いている。

 なお、近北州の動静について、異母弟オレッサンドラだけでなく、ボスカからもザユリアイは、情報を得ていた模様。

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