花の意思(四)

 公女[ハランシスク・スラザーラ]と先の東州公[エレーニ・ゴレアーナ]が行き違いとなった事の経緯は、以下のとおりである。


 小サレはすいかんを訪れ、「かたきを取る前に、まずは大公どの[オウジェーニエ・スラザーラ]の魂をなぐさめるために、葬儀を行いましょう」と言った。なるべくそれに時間をかけて、公女が冷静になるのと、東州公が上京するのを待つつもりだった。

 しかし、葬儀の件は、「ファルエール・ヴェルヴェルヴァの首を墓前にそなえつつ行うので、それまでは延期する」と、公女に断言された。

 当てが外れた小サレに対して、公女は、「おまえは父親と同じで役に立たない。もはや、私が動くまでだ」と、何事か、女官長のタレセ・サレに口述させていた。

 「なにをされているのですか?」と小サレがたずねると、公女が、「ヴェルヴェルヴァを公敵にするように、国主どの[ダイアネ五十六世]へお願いする文を書いている」と言ったので、彼はあわてた。

 そのようなものを出されては、もはや後には引けなくなると、小サレは精一杯の説得をしたが、公女は聞く耳を持たなかった。


 公女の上書を受け取った鳥籠[宮廷]も、上を下への大騒ぎとなったが、前の摂政[ジヴァ・デウアルト]は冷静で、「このような大事に、先の近北公[ハエルヌン・スラザーラ]の裏書がないものを受け取ってもよいのか」と言い、コリニ[・スラザーラ]どのを通じて、公女へ上書を返した。その際、縁戚関係にあるコリニどの(※1)も公女の説得に努めたが果たせなかった。

 前の摂政としては、北の老人[ハエルヌン・スラザーラ]へ責任を転嫁しつつ、公女の目を覚まさせるつもりがあったのかもしれないが、ここで彼女は、いつぞやのじょうらんで見せた、妙な行動力を示した(※2)。



※1 縁戚関係にあるコリニどの

 コリニ・スラザーラは、ハランシスクの従妹いとこセモーニの夫であった。


※2 いつぞやの擾乱で見せた、妙な行動力を示した

 新暦八九七年四月から翌年八月の間にかけ、ハランシスク・スラザーラようするノルセン・サレとスザレ・マウロ擁するモウリシア・カストが、都を南北に分けて争った際に、ハランシスクがてんきゅうに乗り込み、国主ダイアネ五十五世の命でぼくを実現させたことを指している。

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