第四十四話 〜王羌夏《ワン・キョウカ》〜
現代妖怪界隈の話をちゃんと聞いたのは初めてかもしれない。すごい貴重な体験をしているような気がする!
「いやー!確かに最初の頃は味酷かったなー!味もわからないのに色々味変しようとしてとんでもないことになってる時期もあったよねー!」
真琴が昔を懐かしむようにこの店の初期の試行錯誤してる時期のことを教えてくれた。……ん?待てよ。100年以上続けてるといってた気がするけど。
「ねぇ、真琴、このお店100年いじょ…
「さー!お腹も膨れたし食後に少し散歩でも行ってこようかなー!また後で職場で会いましょう!では!」
うって言ってたような……。」
私の言葉に被せるように言葉を発したかと思ったらそそくさと散歩に行ってしまった。とりあえず、聞かなかったことにしてあげよう。
「新人置いてどこにいくんだか。困ったものネー!帰り方もいまいちわからないだロ?キョンちゃん呼んどくからここで待ってナー!」
店長は気を利かせて娘に連絡をとってくれると申し出てくれた。
「あ!ありがとうございます!ナビとかでも帰れますよ?」
「あー、ここGPS反応しないのヨー。ちょっと困ったところネ。」
そうか、人間からはなるべく隠れるような結界があるらしいからGPSが届かなくても不思議はない。
「そうなんですね。じゃあお願いします。」
今まで怒涛の活動していたからやっとひと息つけると思って気を抜いた。やっぱり初めてのことがいっぱいだったし少し疲れてるんだなー。
『まだ午前中だけなのにお疲れだな。まあ、無理もないか。』
空亡が少し心配そうに声をかけてくれた。
―ずっと気を張っていたようですね。無理もありませんが、なんとなく緊張感が伝わってきてましたよ?―
ソラも私の心を見透かしたように声をかけてくれた。
「えー、そんなことまで伝わっちゃうのー?プライバシーがないよー!」
と言いながら笑って2人と話していた。そこへ、キョンちゃんへの連絡を終えたらしい店長さんが帰ってきた。
「今から迎えにきてくれるみたいだヨ。それまでのんびりしているといいヨ!……それにしても君達は仲が良さそうだネ!」
私達の話を尻目に聞いていたのか、仲の良さに関心があるようだ。
「あ!ありがとうございます!そうですね。正直付き合い自体はそんなに長くないんですが、もう大好きです!」
「そっかそっか!それはいいネ!きっとそんな子だからまこっちゃんも心を許してるんだろうネ!あの子も色々昔にきつい思いしてるから、仲良くしてくれると嬉しいヨ!」
あ、やっぱり真琴はなんかあったんだな。でも、ここで店長さんに聞くのも違う気がするな。
「そうなんですね。とりあえず何があったかは本人から話してくれるまで待ってみます。でも、今日付き合ってみたんですけど、すごくいい子で私も仲良くしたいなと思っていますよ!」
ははっと笑いながら店長さんに返答した。店長さんは満足そうに微笑んでいる。
「ありがとうネ!ありがとうネ!」
店長さんは真琴のことをすごい可愛がっているんだな。開店当時くらいからいつも食べてるのかな?きっと2人の間には強い信頼関係があるんだろうなと感じた。
――ガラッ――
「お!キョンちゃん!お迎えありがとネー!」
店長は入ってきた娘に感謝を述べた。
「いえ、うちの期待の新人を早々に失望させるわけにもいかないので。真琴さんには後で話をしておきましょう。」
キョンちゃんは表情があまりないのにも関わらず、怒っているような雰囲気を醸し出していた。
「あはは…、お手柔らかに。」
真琴さん……一応下の名前呼びなんだ。意外と仲が良かったりするのかな?けど、良かった、これで職場に帰ることができる。
「未来さん。まだIDカードも発行されていないので戻れないところでしたよ。」
「あ、確かにそうだった!でも、いざとなったら長老の連絡先は知ってるから連絡すればなんとかなったかな。」
完全に盲点だった。確かに場所がわかっても入れなければ意味はない。
「まあ、そうですが。大臣もあれでも忙しい身です。きつい言い方かもしれませんが、なるべく他に頼る術も持っていた方がいいでしょう。まあ、連絡すればすぐ飛んでくるでしょうが。」
キョンちゃんは大臣秘書として、大臣には仕事をしてもらわなくちゃいけない。そのためには大臣のスケジュール管理もこなさなくてはならない。大臣の時間を割くような事柄には敏感なのかもしれない。
「確かにそうですね…。ちょっと浅はかでした。」
確かにそうだ。何度も家で会っているし、友達のおじちゃんみたいな感じだったけど、日本でも重鎮であることは確かだ。今後は接し方を考えようと思っていたのに、すぐに頼ってしまった。少し落ち込むと、目の前にスマホの画面が現れた。そこにはIDが表示されていた。
「…なので、まずは私と連絡先を交換しましょう。」
ああ!提案だったんだ!ちゃんと仕事のことも考えて注意をしつつ、そのフォローまでしてくれた!優しい!
「あ!ありがとうございます!よろしくお願いします!」
差し出されたスマホの画面を読み取って友達追加した。職員の友達追加は初めてで嬉しくなった。
「よろしくお願いします。それと、私に対してもプライベートではフレンドリーに話してくれて構わないですよ。むしろ、そうしてください。私にもそういった間柄の人が欲しいのです。」
ずいぶん物事をはっきり言うなー。付き合いやすくて良さそうだけど。
「それでも、やっぱり秘書官って言ったら結構な身分ですよね?」
「そうですね。社内ではもちろん、組織図の指示体系に従っていただきます。ですが、ここは私の実家で、今は休憩時間。プライベートも同然です。なので、お、お友達として話してくれてもいいのではないでしょうか?」
お友達という言葉に少し照れるように、話してきた。そこで、これまでのやり取りを見ていた店長さんが耳打ちしてきた
「キョンちゃんってちょっと気難しそうだロ?あんまり友達とかいなかったのヨ。勇気振り絞ってるから応えてあげてヨ。」
「お父さん。横槍はやめてください。」
こう見ていると、キョンちゃんは感情がなさそうな感じだったけど、思った以上にウチに秘めた感情が滲み出ている。むしろ感情豊かな方なのかもしれない。もっと、知っていきたいなと思った。
「あはは!私もキョンちゃんともっと仲良くなりたいな!よろしくね!」
キョンちゃんがいつになくほわっと明るい表情になった様な気がした。
「はい!ありがとうございます。」
キョンちゃんはお礼をいい、嬉しそうにしている。であれば、こちらからも提案しよう。
「それなら、キョンちゃんもその堅苦しそうな話言葉やめてもいいよ?」
「いえ。これは、このままでもいいでしょうか…。この話し方でないと、お父さんみたいに変なカタコトになってしまうのです。」
意外な理由があった。少し興味はあるけど、恥ずかしいのだろう。それはそれでいいか!
「ああ…。そういう事か。わかったよ!ちょっと変だもんね!」
「あいや!変とはなんネ!失礼ネ!!」
「「あははは!」」
お父さんをいじって2人で笑った。キョンちゃんの笑い声は初めて聞いた。こうやって笑える人なんだと思った。そうしてお昼休みももう少しで終わる頃になったので、一緒に本部まで戻ることにした。
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