第四十五話 〜かしましい女3人〜

「大変申し訳ありませんでした。未来様、キョン様」


 私とキョンちゃんの前に土下座をした真琴がいる。何故こうなったか。経緯はこうである。

 私とキョンちゃんがお昼から帰るとオフィスのデスクに真琴が座っていた。スタバで買ったであろうコーヒーを飲みつつくつろいでいた。

 私とキョンちゃんは真琴の近くによると、顔面を真っ青に染めた真琴がこっちにギギギッという錆びたロボットのように首を動かしてこちらを見た。キョンちゃんの顔を見るなり更に泣きそうな顔をした。

 私は特になんとも思っていなかったけど、ケジメは大切ですと言って真琴のを土下座させた。

 ここまでが経緯である。


「私はキョン様ではなくキョンちゃんです。お間違えのないように。」


 え!?そこ注意するんだ!?


「まあまあ、私はもういいから。キョンちゃんも落ち着いて。」


私はキョンちゃんにもう大丈夫だよと声をかける。


「……。わかりました。被害者がそういうのであれば引き下がりましょう。」

「うー。未来ー。ありがとう!キョンちゃんいつも私にだけあたり強いんだから。」


真琴は救世主が現れたかのように私の足に抱きついてきた。


「いえ、いつも大体真琴さんが悪いんですからね。」


 半べそかきながら真琴にお礼を言われた。このやり取りを見ていても、やっぱり真琴とキョンちゃんは仲がいいのかとも思った。


「2人ってやっぱり仲がいいの?」

「「いや!そんなことはないよ!」」


 ハモってるし!そんなに否定しなくてもいいのに。多分お互い気にしあってはいるんだろうけど、なかなかきっかけがなかったって感じなのかなー?

 私がうまいこと間に入れたらいいけど、東京本部勤務ではないから難しいかもなー。というか、明日からはここでの仕事ではないんだよなー。せっかく仲良くなったのにちょっと寂しいな。


「うふふ、やっぱり仲良いじゃん。あ、そうだ!真琴も連絡先教えてよ!」


 さっきみたいなことが今後あっても困るし、せっかく仲良くなったんだから連絡先くらい交換しておきたいよね!


「うん!いいよいいよ!望むところだよ!……って、『も』??もってどういうこと?」


何を気にしているんだろう??

さっきキョンちゃんと交換したから、『も』だけど。


「え?さっきキョンちゃんと連絡先交換したんだよ。それで真琴にも聞いておこうと思って。」

「えー!?キョンちゃんと交換したのー!?うわー!私が1番になるはずだったのにー!!」


お昼前に聞いておくべきだったか…などとボソボソ独り言を言っている。


「いやいや、1番とか気にしなくても……。」

「あら、真琴さん。私が未来さんと『1』に連絡先を交換しましたよ。」


 キョンちゃんがけしかけた。意外と子供っぽいところがあるな。そして、やっぱり仲良いでしょ。


「きいーー!悔しい!」

「ほらほら、初めて連絡先交換したのはキョンちゃんだけど、私から連絡先聞くのは真琴が初めてだから!ね!」


ちょっと面倒だけど、あやしておこうか。


「ん、まあ、そういうことなら…。」

「ありがとう!」


真琴は少し機嫌を直してくれたみたいだった。


「そうですか。所詮私は2番目の女なんですね。」


 何故かキョンちゃんが不貞腐ふてくされてしまった。


「あー!どうしよう!2人とも仲良くなりたいよ!どっちが先とか関係ないでしょ!」


 私はあわあわしながらなんて答えればいいんだろうと迷っていると、


「なーに言ってんだ!1番最初に連絡先交換したのは俺だからな!!」


 長老が後ろから話に割り込んできた。


「長老!?何してるんですか!?」

「いや、そりゃ休憩だろう。休憩くらいしなけりゃやっていけねーよ!それはそうと俺が1番だからな!」


負け惜しみのように、1番宣言を言い放った。長老も子供だった。


「「長老はすっこんでてください!!」」

「お…おう。こえーな。」


そんなやりとりもありつつ、2人とも本当は仲が良く、私をいじろうとしただけみたいだった。実際にキョンちゃんの実家に毎日のようにご飯を食べにいく真琴は姉妹のような存在みたいだ。時には衝突もするけど、基本は気軽に話せる間柄らしい。


「ちょっと、待ってよ!ひどいって!」


 もう本当に焦った。正直こういうことって慣れてないから本気にしちゃうし困ってしまう。


「ごめんごめん!悪気があったわけじゃなくて、ちょっと仲良くなった証として何かイベントを起こしたくてさー!」

「そうね。でも、お店で置き去りにしたのは素でしたね。そこに関しては本当に謝罪していただかないとですね。」


 あ、なんだ、そこから演技ってわけじゃないんだ!?じゃあ、演技はオフィスに帰ってきてからということになる。そうなると、2人の連携はすごいものだと感心した。一言も会話をせずに、お互いが考えていることを把握できているからだ。この2人が組んだら無敵ではないだろうか。


「そっかー!思い出作りってことか!?なら、とりあえずは許してあげよう。明日からは私は地元だからねー。こっちきた時はよろしくね!」

「もちろんだよー!むしろ、そっちに遊びに行くかもしれないから、そしたら色々案内してね!」 

「そうですね。その時は私もご一緒したいです。」

「もちろん!!是非是非遊びおいでよー!私の家に泊まってもいいからね!」

「おお!有元隊長のお家ですか!?それは色々話も聞きたいなー!」


 そうか、お父さんとお母さんは陰陽省というか、陰陽師の中だと結構な有名人だったんだっけ。会って話してもらうのもありかな。

 お昼休憩も終わり、午後の仕事にみんなが粛々と移っていく中、私は長老に呼ばれ、大臣室に行くことになった。


「どうだった?午前中は?」

「恵慈さんもキョンちゃんも真琴もみんな気さくで付き合いやすくていい人たちだったので、すごく有意義に過ごせたと思いますよ!むしろ、ここで働きたいくらいですよ!」

「ガッハッハ!!そりゃいい!こっちに来るか!?」


軽いノリで長老が誘ってきた。


「それも確かにいいですねー。でも、あっちでもやりたいことがまだあるんですよねー。」


 2人とも冗談まじりにそんな話をした。実際のところは、地元でやらなくちゃいけないことがまだある。


「まあ、冗談はさておき、今朝も話したけど、明日からは群馬支部の方で活躍してもらうことになるが、とりあえずの方針は決めているか?一応、情報の共有は事前にしておこうと思ってな。」


 明日からの私の方針を長老なりに知っておきたいみたいだ。特に最近の傾向から問題の中心にいる人物ではあるから当然と言えば当然か。

 ここは正直に返答しておこう。


「地元に5か所、妖力の強い場所があるんです。その2つは解決したんですが、あと3か所もまずは見ておきたいと思っています。解決した2か所のうち1ヶ所にはソラが封印されていました。おそらく、残り3か所も何かしらの封印がされていると思います。まずはその調査からと思っています。」


 長老は目を閉じ、熟考しているように見える。


「…………。うん。そうか。」


 と、一言だけ言うと、チラッと私の方を見た。


「未来ちゃん。大方その方針でいいと思う。…が、猶予としては半年、ちょっと短く見積もっても3ヶ月は猶予があると見ている。だから、その前に一度、恵慈にしっかりと自分の陰陽師としての長所と短所を見極めてもらえ。1ヶ月は自力の強化に費やして欲しい。今までもそうだったと思うが、戦うのは簡単な事じゃない。少しでも強くなって欲しい。」


 長老から真剣な眼差しでお願いをされた。これに関しては、自分も賛成である。長老の方から提案をしてもらって、むしろよかった。自分だけだと心配もあったし。


「ありがとうございます!願ったりです!正直どうしたら近道なのか全然わからなかったので、提案してもらって助かります!」

「まあ、そうだよな。力にも目覚めたばかりだしな。恵慈には言っておくから明日からは恵慈と共に修行をしていく事だな。」

「ありがとうございます!私からもお礼言っておきます!」

「おう!じゃあ、これで話は終わりだ!午後はオフィスでここの仕事を見学してくれ!古河にお願いしてあるからな!」

「わかりました!では、失礼します!」


 私は一礼して大臣室を退室する。午後はオフィスでの仕事を見学できるみたいだ。どんなことをやっているんだろう。楽しみ。

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