第四十三話 〜中華料理・楊蘭〜

真琴に誘われて、お昼を食べに行くことにした。

お昼を食べるために本部から東京駅へ降り立つ。

 八重洲口を出てすぐのところにある路地を進むと、いい匂いがしてくる。この匂いの発信元がこれから行く中華料理屋なんだろうか?どんどん進む真琴に着いていくと、奥まったところに赤い看板で「楊蘭ようらん」と書かれた店が見えた。


「あそこだよー!中華料理楊蘭!美味しいんだよー!」


真琴ははしゃぎながら私に紹介した。


「へえー!ザ・中華料理屋って感じのたたずまいだね!楽しみだなー!」


 真琴は扉を開けて店の中に入る。私も続けて店内に入ると、美味しそうな匂いが充満していた。


「いらっしゃーい!…って、まこっちゃんネー!毎度!」


お店に入るとすぐさまあいさつが飛び交った。


「まいどー!今日は2人ね!私はいつものよろしく!未来は決める?」


 店長らしき中華風の洋服にがっしりした体つき、髪の毛は後ろに三つ編み、黒い小さなサングラスをかけた、いかにも中国人ですよって言わんばかりの男性が、真琴を見るなり挨拶をしてきた。どうも、真琴はここの常連らしい。真琴には定番のメニューがあるみたいだ。私も決めようかと思っていたけど、真琴が気に入っているメニューがあるんだったら私も最初はそれを食べてみたいな!


「私も真琴とおんなじのでも大丈夫かな?」

「大丈夫でしょ!店長!いつもの2人前で!」


とりあえず、真琴のいつものというやつを注文してもらった。何が来るかはわからないけど!


「あいヨ!ちょっと待っててヨー!」


店長からも返事が来て注文を受け付けてくれて、すぐさま調理に向かった。


「よし!じゃあ座って待ってよー!」


 店長に注文した真琴は空いている席に座った。いつもカウンターなのか、今日もカウンターに座った。私も真琴の隣に座り、真琴に汲んでもらった水を一飲みした。


「そう言えば、いつものってなんなの?」

「それは来てからのお楽しみだよー!」


 なんと!?そんなに楽しみにしててもいいものなのかな!?楽しみだなー!


「店長さんは本場中国の人?」

「あはは!なんかエセっぽいよねー!けど本場らしいよ!」


私の質問に冗談めかしく返答した。その会話を聞いていたかのように店長が話に入ってきた。


「エセとは失礼ネー!ちゃんと現地人ヨー!本場の味をみせてやるネ!」


 ハイ!っと出されたのは、炒飯と春巻きに小籠包と中華スープのセット。どれも美味しそう。随分早かったな!?


「お!きたきたー!いただきまーす!」


真琴のいつものは見た目もとても美味しそう。炒飯と春巻きがめちゃくちゃ好きな私は歓喜した。


「美味しそう!いただきます!」


 真琴は待ってましたと言わんばかりに炒飯をかき込む。私もその美味しそうな見た目と匂いに負けた。早く食べたいと言う欲が全面に押し出された。

 炒飯は自家製の焼豚を使っているらしく、味の染み込んだジューシーな焼豚がゴロっと入っていて、パラパラのお米一粒一粒が卵にコーティングされて黄金に輝いているようだ。味もちょうどよい濃さで焼豚との相性が抜群である。

 次に春巻きはパリッとした食感の後に春雨とひき肉と野菜の新鮮な味わいが一気にきて満足感がとてもある。

 小籠包は言わずもがな。口に入れた瞬間、小籠包の中に閉じ込められていた肉汁が溢れ出してきた。熱いけど、すごく濃厚な味の肉汁で、春巻きや焼豚とは違った味わいを感じた。

 そして最後に中華スープだが、脂っこいメニューを食べてしつこい感じになっている口の中をさっぱりとしてくれるような少し薄めの味わいだけど、それがまた他のメニューに合っていい調和を示している。


「美味しいいい!!」


 私は素直に驚きの声をあげた。


「ん!でしょ!美味しいよねー!!」


真琴は私が美味しいと感じてくれたことが嬉しかったみたいで、ニコニコしながら話した。


「うふふ。ありがとうネ!そう言えば、アナタはまこっちゃんの友達?」


ふと、店長からも質問があった。


「ん、ああ!すみません。私、真琴と同じ職場で働くことになった土御門未来って言います。同じ職場と言っても、今日は顔見せでこっちにきてるので、本来は群馬の支部で働きます。」

「あー!なるほどネー!じゃあ、妖怪の話は大丈夫な人ネ?」


店長は妖怪系の話もできる人みたいだった。


「大丈夫だよー!未来は陰陽師だからね!」


 それは言っちゃっていいのだろうか?一応、外では秘密にするようなことだった気がするけど。


「多分気づかないと思うけど、このお店って妖怪とか陰陽師とかしか近づけないし、見えないようになってるお店なんだよね。」


 え!?そんなお店があるんだ!?全然普通の路地裏って感じだったけど、結界があったような気もしないし、どうなっているんだろう。


「この世界にはね、こういった妖怪達が羽を伸ばせるようなお店とかが点在してるんだよ。このお店もその一つだよ。」

「そうネ!ちなみにこういった店を構えている人は大体妖怪か、それに協力的な人間たちだヨ!私も妖怪ネ!」


この世界の新たな一面を垣間見た気がする。


「そうなんだ!?と言うか、店長さん妖怪だったの?気づかなかったー!」

「見た目は人間に近いからネ!キョンシーだヨ!キョンちゃんわかるかい?ここはキョンちゃんの実家だヨ!ちなみに娘の名前はワン羌夏キョウカと言うネ!」

「なんと!?」


 まさかの事実だった。キョンちゃんキョウカって言うんだ!?それも驚きだし、ここが実家というのも驚きだし、色々驚きが隠せない!?


「キョンシーの家族っていうのもなんかシュールだね。」


娘って言っているくらいだから家族なんだろうけど、本当の家族なのか、それとも同じ境遇の家族って意味なのか?


「私達はみんな一度殺されたのヨ!そこに呪禁師じゅごんしがきて家族全員をキョンシーとしての生を与えてくれたネ!感謝感謝ヨ!呪禁師は日本からきた陰陽師の家系の子だったみたいヨ。一緒に日本に着いてきたネ!」


 そうだった。キョンちゃんも店長さんも普通に接することができるから忘れてたけど、キョンシーってゾンビなんだっけ。ってことは一度は死んでいる肉体なんだよな。


「そう言えば、ご飯すごい美味しかったけど、味見とかできないんですよね?どうしてるんですか?」

「そこはもう感覚ネ!最初は分量とかすごい気をつけてやっていたけど、もう、感覚で分量とかわかるくらいにはなってるネ!何せ妖怪だからネ!このお店ももう100年以上は続けてるヨ!」


 さすが妖怪というべきなのか。時間に縛りがないと際限なく経験詰めるし成長できるんだな。

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