第三十八話 〜歓迎〜

ソラが気になったことを念話で話してきた。


 ―ねぇ、未来さん。早速妖怪に会えましたね!妖怪が働いているなんてすごいですね。―

「あの、別に差別するわけではないのですが、ここは妖怪でも働けるんですか?」


 ソラが気にしているようなので代わりに聞いてみることにした。


「ん?ああ!ここでは実力があるやつは誰でも歓迎だし、昇格もできる。妖怪幽霊人間の区別はほとんどないと考えてくれ。けど、この考え方は正直希少派だ。はぐれの陰陽師とか悪妖怪なんかに聞かれたら笑いもんだから気をつけろ。なるべくそう言った風潮を取り除きたいとは思っているんだがな。」

「そうなんですね。わかりました。」


 陰陽省もなかなかシビアな世界に身を投じているみたいだ。


「あ、そうだ。あと、この陰陽省というのは表舞台に出ていないのはわかってくれていると思う。この場所も巧妙に隠してある。常世の存在というのは奇妙な特技があるやつとかもいるから、できるだけ気づかれないようにしているんだ。陰陽省というのが公になっていないのもその為だな。だから無闇に外で陰陽省の名前は出さないで欲しいんだ。何かの伝達がある時とかは大体架空の会社名からの依頼という形で報告などがある。まあ、それはこれから知っていってもらえたらいいかな。」

「わかりました。」


 なんか秘密結社みたいですごいな。みたいっていうか、ほんとに秘密結社なんだけど。これから覚えることとか多そうで大変そうだなーっと思った。


「あ、ってことはここではキョンちゃん以外にも妖怪が働いていたりするんですか?」

「ん?おお、そうだな、ここは大体半数は妖怪かな?妖怪を使役できないやつもいるけど、基本みんな仲良くやってるぞ。あとで詳しく話すけど、未来ちゃんは基本的には群馬支部に出勤してもらうことになる。そこも半々くらいじゃなかったかな?」

「そうなんですね!それはよかったです!いろんな人や妖怪たちに会えるのは嬉しいですね!」 


 ソラもいろんな人や妖怪に会いたいらしいし、とてもいい環境だと思う。

 

 ―たくさんの出会いがあるのはいいことですね。楽しみです。―


 ソラも楽しみのようだ。一方、空亡は特に何も話すことはないようだ。達観した空亡は特に気にすることはないとでも言わんばかりに黙っている。私の見立てでは少し緊張しているのだと感じる。空亡は人が多い場所だったり、初対面の人がいる場所だったりすると口数が減るような傾向を掴んでいる。そして、おそらく緊張によるものだと考えられる。そんなところが可愛いとも思う。


「おっし。じゃあここで話していてもらちがあかないからな!早速オフィスにいくか!」


 長老がそういうと、キョンちゃんが先頭にたち私たちを案内してくれた。


「はい。では、こちらにどうぞ。」


 キョンちゃんに先導されながら奥にある扉の方に案内されていく。どんな場所なんだろう。普通の会社って感じなのかな?私はパン屋しか経験ないから普通の会社ってよくわからないんだよな。みんな楽しみにしてくれているらしいけど、怖い人はいないかな。などなど思いをせらせながら歩いていく。

 ついに扉の前まで来た。

 キョンちゃんが扉の取手に手をかけて扉を開く。明るい光が扉が開くと同時にあふれてくる。私はその光の中へと歩みを進めた。


 ―ッパーーーーン…パンパン!!―

「「「ようこそ!!陰陽省へ!!」」」


 私がオフィスへ入った瞬間、クラッカーの破裂音とみんなの歓迎の声が響いた。私は呆気にとられて、その場で呆然と立ち尽くしてしまった。周りを見渡すとニッコニコした長老と微笑んでいるようないないような感じのキョンちゃんがこっちを見ていた。きっとこうなることはわかっていたのだろう。少し落ち着いて前を見据えてみると、人間もいれば妖怪もいるのがわかる。私が呆然としすぎていたのか、みんなの顔が少し怪訝そうな表情に変わってきた。


「……?え?え!?大丈夫!?やりすぎたかな?」


 1番前で出迎えてくれた男性が話かけてきた。


「え?ああ!ご、ごめんなさい!びっくりしすぎて呆然としちゃいました。大丈夫です!ありがとうございます!」

「さあ!みんな!土御門未来つちみかどみくさんだ!仲良くしてくれ!」


 長老が、私の紹介をみんなにした。この紹介を皮切りに「はーい!」と叫びながら、みんなが私の方にわらわらよってきて囲まれた。各々、色々質問があるみたいだ。


「お父さんって、土御門隊長ですよね!?」

「お母様の道代様は美しいですよね!?」

「未来さんは今までどんなことしていたんですか!?」

「好きな食べ物何ですか!?」

「スポーツ好きですか!?」

「妖怪はいつから見えるようになりましたか!?」

「こっちに引っ越して来ないんですか!?」


 などなど、私のことやお父さんお母さんのことを色々質問攻めにされた。小学生のとき転校してきた子のことを思い出した。


「ほれほれ!怒涛どとうすぎるわ!みくちゃん困ってるだろうが!お前ら小学生か!?」


 みんな、いい人そうだなー。あんまり注目されるの得意じゃないから萎縮いしゅくしちゃったけど。


 ―みんないい人そうではないですか。妖怪の方々ものびのびしていていい環境なんだと思います。―


 ソラが念話で感想を言った。


 ―『うむ、確かに妖怪たちも人間たちもお互いを信頼しているように感じるな。』―


 確かに穏やかなムードがそこにはあった。色々質問はあったけど、まずはこれから入ろう。


「おはようございます!土御門未来です!最近陰陽師としての力に目覚めました!わからないことばかりですが、よろしくお願いいたします!」


 元気に挨拶。これがもっとも重要だ。質問に関しては後々答えてあげればいい。


「おう!いい挨拶だ!よろしく頼むぜ!」


 長老の一言と拍手に合わせて、他の人たちもパチパチと拍手をしてくれた。


「一旦話をするから未来ちゃん連れていくぞ!みんなにはそれからよろしく頼む!……じゃあついてきてくれ。」


 そういうと、なにやら説明があるとかで、大臣室まで行くことになった。


 ――大臣室――


「面白かっただろう?」


 ニヤニヤしながら大臣室のソファにどかっと座って話しかけてきた。そして私にも対面に座れとジェスチャーで伝えてきた。私は指示に従って、対面のソファに座りながら、


「今となっては面白かったですけど、すごいびっくりしましたよ!?あの歓迎ムードなんですか?」


 正直長老は今のところお父さんの飲み仲間みたいなおじちゃん的立ち位置である。結構フランクに話せるが、今後は上司として振る舞わなければいけないなと少し反省をする。


「陰陽師ってのはある種の才能のようなものだ。しかも運の要素も大きい。力に目覚めるやつもいれば目覚めないやつもいる。ぶっちゃけ人手不足なんだわ。そんな中、有望株が入ってくるとなれば大騒ぎにもなるわな!」


 ガッハッハっと笑う。世間から隠れて存在しているだけでなく、それに属せる人は少ないって本当に大変なんだな。


「まあ、少ないと言っても、各都道府県に支部が持てるくらいには人数はいるからな。未来ちゃんは群馬支部で活躍してもらおう!たまにはこっちきてもいいからな!」


 前にも話は聞いたが、私は群馬支部で働くことになった。地元で働けるのは嬉しい。


「群馬支部もこんな感じなんですか?」

「まあ、どこの支部もこんな感じだな。人間だけのコミュニティじゃないから結構アバウトな感じはあるかもな。」


 あー、そうか。半分は妖怪なんだもんな。それは普通の職場とは違うよな。でも、暗い感じじゃなくて明るい雰囲気なのはよかった。


「よし!まずは未来ちゃんの仕事について説明するか!」


 本題に入ることになった。実際の仕事内容を説明してくれるみたいだ。募集要項は結局もらえなかったから仕事内容もよくわかっていなかった。修行ができるってことくらいしか知らない。


「さて、まず陰陽省での仕事を紹介しよう。基本的に妖怪や幽霊みたいな常世のものたちが関わる事柄に関する便利屋みたいな存在と思って欲しい。陰陽省は本来の官庁の仕事のように取り組むものは事務担当の少数派だ。ほとんどの陰陽師と妖怪たちは外に出て常世のもの達によるトラブルを解決しに行っている。」


 そういえば、そんな話は聞いたことあるような。お父さんたちもたまには地方へ行ってトラブル解決にあたっていたみたいだし。


「みくちゃん。君にもそんなトラブルの解決に向かってもらいたい。」

「なるほど。そういうことですか。実戦が最大の修行的なやつですか?」

「はは、わかってるじゃねーか!その通りだ!ただ、みくちゃんにはやるべここともあるはずだ。それも一筋縄じゃいかないな。まずは、陰陽師としての経験を積んで、やるべきことに備えることが最優先だと俺は思っている。」

「あ、ありがとうございます!」


 長老は空亡から託された私の使命を考えていてくれた。これからの仕事によりやる気が出てきた。

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