第三十六話 〜新たなる門出〜
今日は朝から慌しかった。
退職の話から今後の話、仕事中には引き継ぎの話。仕事を辞めるのって一朝一夕ではできないものだと感じた。
パン屋は人員の募集を行うそうだが、今のアルバイト従業員の中に来月、パン屋に就職する子がいる。彼女の名前は
彼女は今日、午前休みのようで、お昼ごろから出勤している。私が辞めること、これから引き継ぎを行うことを話した。
「ええー!?みくさん辞めちゃうんですか!?残念だなー。せっかく来月からはフルタイムで一緒に働けると思ってたのにー。」
嬉しいことに、めいは私のことを慕ってこれている。今までも、いろいろと教えてきたし、プライベートでも一緒に遊んだりとかもしていた。そんな先輩が急に退職すると言い出したのだ。本当に残念なんだろう。
「ごめんね。ちょっと家庭の事情でどうしても仕事続けられなくてさ。」
家庭の事情というのは嘘である。朝、社長達と相談して、幽霊・妖怪の話を出すのは得策じゃないとの意見に達し、従業員たちには家庭の事情で辞めるという体裁ていさいをとることとしたのだ。みんなには気が引けるけど、ご理解いただきたい。
「そうですかー。まあ、家庭の事情じゃ仕方ないですよね。とりあえず、引継ぎが終わるまではいてくれるんですよね?頑張って覚えますね!」
めいは引き継ぎの件を了承してくれて、今後の意気込みまで言ってくれた。入ってきた時のおどおどした感じとは大違いにたくましく成長してくれて嬉しく感じた。
「ありがとうね!めいもしっかりしてきたね!私の後を任せた!」
冗談まじりに話ができるのも彼女の人懐っこさがなせる技だと思う。最初はおどおどした感じだったけど、すぐに打ち解けて距離感を縮めるのが上手い子だなと感じたものだ。
それからは、今日の仕事をこなしつつ、めいに引き継ぎをしつつと、いつもより大変な1日を過ごした。
――17:00――
今日はお客さんの入りもあんまり良くなく、パンも少し余り気味なので早く閉めることはなさそうだ。
パン屋の基本営業時間は8:00〜20:00で、私は5:00〜14:00が基本の出勤時間である。お昼1時間休憩のフルタイム8時間労働である。今日は引き継ぎのこともあったので、今の17:00までの残業だ。パンが売り切れてしまえば、少し早く閉めることもあるが、今日みたいにパンが残った日は普通に20時まで営業をしている。平日は会社帰りの人達をターゲットにした売りもしているため、あまり早く閉めることはない。
私も最初はバイトから始めて、夜の締め作業とかしていた頃もある。今となってはもっぱら朝からだけど、どの時間帯でも基本的な業務はこなせる。きっとめいは社員になったら朝要員として働いてもらうと思うから今のうちにしっかりと引継ぎとかと教育をしておこう。
そして、今日の仕事が終わりとなった。
「皆さんお疲れ様でしたー!」
閉店までの人と社長と奥さんに挨拶をして帰宅する。これからはいつもより忙しい仕事になりそうだなと感じながら帰宅した。
――帰宅途中――
『皆、良い人たちだな。長老も普段の人柄とはガラッと違ったな。』
空亡が声をかけてきた。
「みんないい人たちなんだよー!自慢の職場だよ!
長老はもう、ギャップありすぎて、最初はきょとんとしちゃったよ!」
―あんなに真面目にできるんですね。わらわも驚きました。―
『妖怪は基本的にお互いを本質で判断するから演技をされても気づけないんだよな。人間とはそういった面でも面白いな。』
―そうですね。昨日の夜テレビでやっていたドラマというやつは役を演じているのでしょう?そういった楽しみ方ができるなんてとても羨ましいと思いました。感動です。―
2人は人間について、妖怪とは異なる特徴を面白がっていた。
「妖怪と人間ってやっぱり違うんだねー。どんなことが違うのとか気になるなー!あとで、詳しく教えてよ!」
私は妖怪と人間の違いについて興味が湧いた。
『うむ。いいぞ。結構時間も必要だろうからまとまった時間が取れる時にでも話をしようではないか。』
「うん!ありがとう!じゃあ次の休みとかに話聞いてみようかなー!」
私は次の休みに妖怪と人間の違いについて空亡に話を聞くことにした。もしかしたら、この気持ちの整理ができるかもしれないと思い、興味はあった。
「とりあえず、今日は帰ったらお父さんと修行の続きしてもらおうかな!」
『そうだな。それがいい。より強くなるのであったら修行は必要だからな。陰陽省で働く前に少しでも強くなっておくのに越したことはない。』
――それから私たちは家に帰り、ご飯や修行を行い明日に備えて眠りにつく。――
それから3週間ほどは特に問題もなく、無事に引き継ぎを終えられた。お父さんとの修行とお母さんからの修行も始まって充実した日々を過ごしている。
めいは立派に成長した。いっぱい頑張ってくれて私が助かった。私の分身ともいえる存在になってくれた!
社長と奥さんには感謝しかない。最後の日も、最後には「いつでも帰ってこい!いつでも遊びにこい!相談もいつでものってやる!」といって私を安心させてくれた。安心できる場所があるだけで心が豊かになる気がする。
そういえば、パン屋最後の日は長老も来てくれた。次の仕事の話を私にするのと、補填に関しての必要書類なんかを社長に渡していた。
私は来月から陰陽省での仕事が始まるらしい。詳しくはまたゆっくりと、と言っていた。
そして……新しい職場への初出勤を迎える。
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