間話1 〜幽霊と妖怪と人間〜

 今日は月曜日。パン屋は接客業だけあって土日が1番忙しい。そのため土日は営業して、月曜に休みを取ることが多い。私が務めるパン屋も月曜が定休日である。

 空亡と出会ってまだ1週間ちょっとしか経っていないのが考えられないくらい濃密な1週間だった。

 今日は休みということで、以前話した人間と妖怪の違いについて空亡と話をしようと自室でくつろいでいる。

 やっときた休みを満喫するぞー!っと息巻いている。満喫といっても、とりあえずは空亡とお話をしたいっていうのもあるんだけどね!

 ちなみにソラは今、狐の姿で私の膝の上に丸まってのんびりしている。毛並みが柔らかくて気持ちいい。ずっと撫でていたくなる感触である。


 ―未来さんは撫でるのが上手ですねー。気持ちいいですー。―


 ソラはそう言うとふにゃーっとした感じで私の膝の上でだらける。すごい無防備な姿を見られて、余計に可愛さが滲み出ている。


「ほんとー?それはよかった!撫でてるこっちも気持ちいいんだよー。」


 と言いながらサラサラでふわふわなソラの毛を撫でている。


『さて、それでは話を始めるかな?』


 空亡が話を切り出してくれた。このままではソラを撫でるだけで休日が終わるところだった!?でも、それくらい言っても過言ではないくらい気持ちいいのだ!


「うん!お願いします!…じゃあ、まず質問なんだけど、妖怪と幽霊と人間って何が違うの?」


まずは私から質問。いきなり確信をつく質問だ。


『うむ、簡単に言うと、死んだ人間の思いすなわち心とと精神が幽霊。これは個人のものだ。対して妖怪は心と精神の集合体だな。人間はそれに身体を持っているものを言う。

 幽霊と妖怪の違いは個人か集合体かというところだろうな。』

「その心と精神の違いって何なの?」


心と精神は似てる気がするけど。


『心と言うのはつまるところ魂だな。魂と言うのはいろんな思いが重なって魂となる。未来が気になっている点もこれに深く関わっている。』

「私が気になっているって言うのは、人間との違いってところ?」

『そうだ。人間とは3つの柱があって成り立っている。それが、

 魂・身体・精神

 の3つだ。この3つの柱がうまいバランスで成り立って始めて人間となれる。どれか1つでもかければそれが「死」と言うものだ。この3柱がバランスを崩すと人は病に侵されたり、怪我をしたりするのだ。』

「へぇー!そうなんだ。じゃあ私は今その3柱があるってことだよね?身体はわかるけど、精神と魂っておんなじじゃないの?」


『確かにわかりづらいかもな。さっきも言ったが、魂はいろんな思いが積み重なったもので、今までの人生で感じた思い全てが織りなすものだ。自ら感じ取ることは不可能だろう。精神と言うのは楽しい、辛い、悲しいとかのその場の意識というとわかりやすいかもしれないな。』


「うーん、何となくわかったようなって感じだけど、そんな括くくりがあるってことだね。」


『少しわかりやすい例として、バランスを崩してみるとどうなるかというところだな。


 例えば、身体のバランスが崩れは怪我や四肢欠損。

 精神の崩れは鬱だったりテンションが上がりすぎだったりする。魂の崩れは人による介入はほぼ不可能だ。魂が崩れるとは殆どが「死」を意味する。よくても、その人としての個人が失われるということとなり、人格が変わったり、記憶を無くしたりする。』


 「おお、何となく想像がつくかも。」


『それはよかった。それに、1つバランスを崩すと連鎖的にバランスを崩しやすい。怪我をしたら気分が落ちるとか、はしゃぎすぎて怪我をするとかな。だが、基本的には魂がバランスを保っていれば、魂がバランスを調整してくれる。』

「人間って魂が強いんだね!強い魂を持っている人ってすごいなー。」


本当によくできているなぁ。確かにいつのまにか気分が戻っていることとかあるもんなー。


『そうだな。有名な著名人とかは基本的に魂が強い。または濃いと言ったりするな。その魂がその人の象徴と言ってもいいほどだからな。』

「なるほどー。あっ、魂って強くできるの?」

『その人の生き方次第というところだな。経験もあるし、感受性もある。周りからの影響もある。いろんなものを見聞きして経験するのが成長のコツだろう。

 さて、話を戻すが、常世の存在とは人間にはある身体がない。はっきりした違いはそこだけだな。故に「厄」の連中は生身の身体を欲していると言ったところだな。』

「あー、なるほど、それが理由で身体が欲しいんだ。でも、魂とか精神だけなら言っちゃえば不老不死でしょ?それもいいんじゃないの?」

『確かに不老不死ではあるが、やはり生身の五感が重要だな。例えば、美味しいという記憶が魂に刷り込まれていたとして、身体がなければ感じることはできない。だが、美味しいという事実は覚えている。どうしてもそれをまた感じたいという奴らが身体を得たいと思うのは自然なことだろう。「厄」の奴らは身体を得て、その身体にガタが来たら乗り換えるという手段を取り、不老不死を継続するつもりだろう。』

「そっか、そうすれば不老不死な人間の出来上がりってことか。」


突拍子もないことだけど、「厄」の連中からしたら最重要課題ってところなのかな。


『そうだな。全く、とんでもないことを考えたものだ。これはどうしても阻止しなくてはならんな。

 まあ、そんなところだな。人間と常世のものたちの違いというのは身体があるかないかと言うところだな。』

「あ、妖怪と幽霊の違いは?」

『最初に言ったが、個人の魂と精神が幽霊、集合体が妖怪だな。幽霊は個人が特定できるが、妖怪というのは、大勢の同じ思いが積み重なって精神を持った存在だ。わかりやすいところで言うと、「蜘蛛が怖い」と言う思いが集まって形をなし、精神を持ったものが未来も一度目にした土蜘蛛だったりする。それ以外にも様々な思いが重なって生まれた存在が妖怪だ。』

「そっか。なるほどね。じゃあ空亡もそう言った思いの集合体から生まれたってこと?」

『そうだな。我もそうだし、ソラもそうだ。だが、どんな思いがと言うのははっきりはわからない。その思いが何なのか見つけるのが妖怪が彷徨っている理由の一つだろう。』

「そうなんだね。じゃあ私も空亡の魂に刻まれた思いを探す手伝いをするね!」

『ふふ、ありがとう。今はすべきこともあるし、気長にやるとしよう。』

 ここまで空亡の話を聞いて、大きな問題ではあるけど、人間と妖怪の違いは身体の有無だけだと判明した。

 多分陰陽師とかそれに関係する人しか知らない事実だろう。すごい話を聞いたような気がする。

 これを機に私が空亡に思いを告げる気持ちにはなっていないけど、告げることのできる可能性は見えてきたような気がする。

 今日の話は有意義なものだったと感じた。この先に何が起きるかわからないけど、今はみんなで困難を乗り越えていこうと思った。

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