第三十三話 〜陰陽省非常勤〜

パン屋へ向かう通勤途中、陰陽省の非常勤について少し聞いておくことにした。お父さんから聞いた話もあるが、実際にはどんなことをやるのか気になった。ちなみに今日は徒歩で通勤している。


「あの、陰陽省の非常勤ってどんなことやるんですか?お父さんもやってたみたいですけど、学生の頃だったみたいだし、今とは状況違うと思うので軽く教えて欲しいです。」


 長老は、ああ!そうだった!という顔をして、話始めた。


「悪かったね!募集要項には何も書いてなかったわ!まず、ありちゃんがやってた非常勤は学生にやってもらう雑用とかで、どっちかっていうとアルバイトみたいな感じだったんだが、みくちゃんは、非常勤でも少し違う意味合いで雇うことになっているんだ。学生にはまず、勉強という本分があるからな。それを邪魔しないような仕事内容になる。だけど、みくちゃんは社会人で、陰陽省の仕事一本にしてくれるような覚悟もしてくれた。働きながらだったら、ありちゃんと同じような仕事内容としようとしていたが、みくちゃんにはとりあえずのところ、陰陽師としての修行をしてもらう。まあ、まずは陰陽師としての自力をつくることが仕事だ

な!」


 ほう。なるほど。修行をしながらお金をもらってもいいものなのだろうか?気になったことはすぐ聞くようにしている。


「修行をするのにお金もらっちゃってもいいんですか?」

「ああ、まあ、実際はマイナスでしかないがな。みくちゃんの将来に投資するようなもんだ。もちろん、怠けるようならケツは叩くぞ!…だが、それは大丈夫だろう。それに、将来性でいえばこの給料なら安いくらいだ!ありちゃん以上の逸材だからな!」


 ガッハッハと調子の良い笑い声をあげた。

 将来の私に投資か…。そうなると怠けるわけにはいかないな。まあ、もともと怠けるつもりはないけど。

 だけど、仕事が修行か。思っていた仕事内容と少し違うけど、大丈夫だろうか?修行もお父さんとしかやったことないし、自分ではどうしたらいいかわからないし。この先どうなってしまうのだろう。


「まあ、まだ何もわからなくて心配だとは思うけど、空亡くん達と離れることとかはないし、ちゃんと説明はするから心配しないでいてくれや!」

「あ、そうですね!まだ何も説明受けてないですもんね!よろしくお願いします!」


 確かにまだ心配してもどうしようもない。しっかり説明を聞いてから考えよう!

 そんなことを話しながら歩いていると、パン屋が前に見えてきた。


「あ、長老!あそこが私の職場のパン屋だよ!」


 話しながら歩いているとあっという間にお店に着いてしまった。元々近いというのもあるが、こんなに通勤時間を短いと思ったことはない。


「お、もうついたのか!?近いな!」

「まあ、家から近いっていうの選んだ理由の一つですからね。最初に話しますよね?一旦待っててもらえますか?軽く話してきます。」


 そう言って、長老を外に待たせて、裏口からお店に入ることにした。


「おはようございまーす!」


 まずは挨拶をする。これは一般常識として当たり前のことだ。こう言った常識や礼儀的なことには社長や奥さんはうるさい。入社してすぐ、風邪で喉が痛くて挨拶できなかった時は最初にこっぴどく叱られた。風邪ということがわかると、今度はなんでそんな状態できた!?と怒られ帰された。

 少し早とちりなところもあるけど、基本的にはいい人達だ。学ぶことも多々ある。


「おー!おはよう!」


 社長から挨拶が返ってきた。奥さんもいるようだ。2人ともすでに働いているが、改めて声をかける。


「あの、お話があるんですけど、少しお時間いいですか?」


 私はこれから仕事を辞めますという話をしにきた。正直、心臓バクバクである。今までよくしてくれた職場の人に、辞めたくはないけど、辞める話をするなんて、私は恩知らずなんではないか?これからパン屋では人員の募集もしなくてはならないだろうし、苦労を考えるとハラハラする。


「お?改まってどうした?まあ、今なら時間あけられるけど。」

 「すみません、ありがとうございます。ちょっとお客さんもいるので入れてもいいですか?」

「お客さんもいるのか!?なんだなんだ!?とりあえず、待たせるのもあれだし、入ってもらえ。」


 そう言ってもらってから、入り口前で待機していた長老を厨房に招き入れた。長老は社長と目が合うと会釈をして、こう続けた。


「おはようございます。そして、お初にお目にかかります。私、こういうものです。」


 そういうと、名刺を取り出して社長に渡した。


「あ、これはこれは、ご丁寧に…。……!?内閣府陰陽省?」


 え!?陰陽省って言っちゃっていいの??


「困惑しているでしょうが、これは間違いなく、実在する日本の組織です。本日伺ったのは、未来さんをこの組織にスカウトした手前、こちらでの職を辞職していただかなくてはならなくなった事による説明をと思い、伺いました。」


 要点は確かにそんなところだ。けど、結構がっつり喋ってるな!?


「スカウト?辞職?どういう事ですか?まあ、とりあえず、説明を聞かせてください。」


 確かに説明が欲しいところだろう。私も説明が聞いてみたい。

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