第三十二話 〜決意の後〜
私は今、長老と電話をしている。陰陽省の仕事を引き受ける件に関しては先ほど言ったとおりだ。もう一点聞きたいことは、私がパン屋を辞めた時の補填について。
「あの…、私が陰陽省の仕事を引き受ける際に、今の職場は退職する形になると思うんですけど、そっちはどうなりますか?」
そっちはどうなりますか?なんとも抽象的で的を射ない質問だとは自分でも思っている。だけど、補填あるんですかなんて率直に聞く勇気もなく、こんな言い回しになってしまった。
『ああ!それな!…そうだな。明日だ!明日俺も職場に行って話をしようと思う!朝、みくちゃんを迎えに行くから一緒に行こう!』
「ええ!?そう言う感じですか!?」
『いや、やっぱりヘッドハンティングだしなー。こっちも誠意を見せないと納得してくれないだろう。まあ、任せておけ!特典は用意してあるぞ!』
と言ってガッハッハと笑っている。
「そう言う問題なのかな?まあ、明日は5:00くらいに家出るんですが大丈夫ですか?」
『問題ねーよ!迎えに行くわ!』
「はい。わかりました。じゃあ、お待ちしてますね。」
『あいよー!じゃあまた明日な!』
そういうと、ガチャッと通話が切れた。
「…明日長老が一緒にパン屋行って説得してくれるみたい。」
お父さんとお母さんにそういう経緯になったことを説明した。2人とも、微妙な顔をしていたが、まあ、大丈夫だろうと思っているみたいだ。きっとその行動力に押されているのだろう。自分も少し引き気味だ。だが、長老の強引さは別に嫌気がさすようなものではない。相手を尊重した上での強引さであるためか、むしろ清々しいとすら感じる。
きっとパン屋の社長と奥さんとも問題なくことを済ませられる気がした。
今日はもう明日に備えて寝るとしようか。両親におやすみと声をかけて自室へ向かう。
――自室――
『皆、お互いのことを考え行動してくれていて助かるな。』
空亡がさっきまでの話を思い出しながら声をかけてきた。みんながみんなそうではないけど、少なくとも私の周りの人達はお互いを尊重してことにあたっている。恵まれていると常々感じる。
「本当だね。正直、今は自分のことでいっぱいいっぱいだから、私のことを優先して考えてくれるのはすごい助かる。もうちょっと余裕持てるようになりたいな。」
今、自分が話題の中心にいると考えるとテンパってしまう。もう少し、余裕を持ちたいものである。
『今は仕方がないだろう。初めてのことに直面している真っ只中だからな。これから知識も実力もつけて余裕を持っていけばいいだろう。』
「そうだね。そう思っておこう。…さて!とりあえず、明日も早いし寝ますか!」
今どうしようもないことを考えたって仕方がない!とりあえず、明日を乗り切らなくちゃ!
『ああ、おやすみ。』
―おやすみなさい―
「うん、おやすみなさい。」
空亡とソラからおやすみと言われ、私も返答し、すぐに眠りについた。
――翌朝4:00――
ピピピピッピピピピッとスマホのアラームが鳴り、目が覚めた。私はスマホを手に取り、アラームを消して起き上がる。
「ふあーーぁ…。おはよう。」
眠気がまだ残っているが、私は朝は強い方である。すぐに起き上がり空亡とソラに挨拶をする。
『おはよう。』
―おはようございます。よく眠れましたか?―
「うん。そうだねー。昨日はここ最近で珍しく普通の日だったから安心して眠れたよ!」
そんな話をしながら、私は着替えを準備して着替えを始める。着替えの後は顔を洗い化粧をする。自分の準備ができたら、朝ごはんの準備をする。朝は大抵簡単に済むからという理由でトーストにジャム塗るだけだったり惣菜パンだったりパン食が多い。その後は歯を磨いたり出勤の準備をしたりするのだが、今日は出勤準備をしている時に来客があった。
スマホにLINEでメッセージが入る。
『家に着いたぞー。開けてくれー。』
長老からだ。お父さんお母さんに気を遣ってか、LINEで到着を知らせてくれた。メッセージの後には長老のスタンプが送られてきている。自分のスタンプ持っているんだ!?
私は玄関の扉を開けて長老を向かい入れた。
「流石にこの時間は壁壊してこないんですね!?」
「みくちゃん、心外だぜー!流石にそこまではしないよ!昼間だったらぶっ壊してたけどな!」
ガッハッハと朝から元気な長老であった。昼間でも極力辞めて欲しいものである。
「それにしても、スーツでビシッと決まってるとなかなか格好いいですね!」
私は長老にラフなイメージが強かったけど、こうやってビシッとしているとそれはそれでギャップがあり格好良く見える。
「なかなかってなぁ!普通に格好いいだろうが!」
『未来。そろそろ出なくて良いのか?』
空亡が促してきた。
「お、そうだね!行こっか!」
「おおい!スルーかよ!」
長老は突っ込みを入れたが、そこまで気にしてはいないような感じで、後についてきた。今日はパン屋に話をするために長老についてきてもらうことになっている。長老と共に通勤するのはすごい新鮮だ。この時間はほとんど人もいないからこんな賑やかな通勤もあるんだなと感じた。
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