第二十三話 〜『空亡』の理由〜
…………
……
『未来!!しっかりしろ!』
空亡が声をかけてくれている。
いや!私は間違ったことをした!合わせる顔がない!むしろ私がいなかった方がまだ勝算があったのではないか!私が軽い気持ちで手伝うとか言わなければ!お父さん達が戦った方がまだマシだったのではないか!?
後悔の念が湯水の如く溢れ出てくる。それと同時に大粒の涙も溢れてくる。
「……わ、わだじが……ヒック。わだじが間違って……。」
『良い!!!』
空亡はガッと私の肩を掴んで、その炎を宿した赫い眼で真っ直ぐに私のことを見ながら叫んだ。両手に妖力のを集めて具現化させ、触れられる様にしたらしい。
『誰にでも失敗はある!未来は力になろうとしてくれた!その気持ちが我に力をくれる!これから挽回のチャンスはいくらでもある!!絶望するにはまだ早い!』
そういうと、空亡は私の前に立ち
『いくらでもチャンスを作ってやる!今回の失敗なんて取るに足らないものだと証明してやろう!そこで待っていろ!』
私はそう言う空亡の背中を涙で滲んだ目で見据えた。
「もう、言葉は交わせたでありんすか?お嬢さんには手助けしてもらった故、おしゃべりの時間くらいはあげるでありんすよ?」
あっはっはっと笑いながら皮肉を言う。ひとの心を乱すのが得意な様だ。私はその言葉にまた打ちひしがれそうになる。
『だまれ!!!』
空亡の怒号にビクッとする。こんなに怒ることがあるんだ。
『お前にはわからんだろうが、未来の心は誰よりも澄んでいる。人間と妖怪を区別せず、我のために覚悟を決めてくれた。我は…我はそうやって我に寄り添ってくれる者を1000年以上探していた!そしてようやく出会えたのだ!我は全身全霊で守っていくと心に誓っている!』
空亡の決意の言葉と共に、胸に熱いものが込み上げてくる。そんなことを思ってくれていたのか。さっきとは違った涙が込み上げてきた。空亡は本気で怒っている様で、空亡を包む空間が熱せられたかの様に揺らいでいる。
「そんなことを言っても、わっちの力は見えているでありんすか?先ほどとは比べものにならないでありんすよ?」
玉藻前たまものまえは確かに先ほどとは比べものにならないほどの妖力を有している。今のままでは勝算は少ない気がする。
その時、空気が凍ったように、シン……っとなり、空亡が静かに言葉を発する。
『お前は知らないのか…?我がなぜ百鬼夜行に居たのか。なぜ我が「
空亡はなにを言っているのだろう。
『平安の世、百鬼夜行を退けた者を覚えていないか…?まあ、無理もない。皆の記憶にはただ夜が明け、百鬼夜行は帰還したと信じている筈だ。』
「はて?なにを言っているでありんすか?そんなの当たり前じゃない。」
『真実はそうではない。百鬼夜行を退けたのは……我だ。妖怪達の本質に深く刻み込まれた強さ故に我は幹部となったのだ。そして、本質を変化させることで、皆の記憶から我の記憶だけを都合よく変化させた。本質に刻まれた百鬼夜行最後の夜明けの太陽を覚えていないか…?』
そういえば、空亡は500年に一度本質を変えることができると言っていた。それ故、諜報に向いているとも言っていた。本質を変えることで、相手の記憶の補填もできるのか。
「……確かに夜明けと共に百鬼夜行は終わった…?いや、帰還後の被害は激しかった……?うまく思い出せない…?しかし、あの夜明けの太陽には今でも恐れを感じるでありんす。」
『本質の変化はそう簡単には気付けない。だが、教えてやろう…あの大戦で百鬼夜行の半数を壊滅させたのは我。そして、我が「夜明けの太陽」そのものだ!
空を太陽の光で覆い、百鬼夜行を終結させた。
それが我、空亡だ!』
そう言うと、空亡の少年の姿が崩れ、身体中に
『そして、もう一つ。あの時と今回。変わらぬものがある。
……我は心より怒りが込み上げている!』
手も大きくなりゴツゴツの小手のような装甲をした空亡の拳が思いっきり握られる。
それと同時に瞬間移動したかのように玉藻前たまものまえの眼前に現れる。
「ッッんなんでッ…!?」
なんでありんす!?と言おうとしたのか、途中まで言ったかと思ったら空亡に思いきり顔面を殴られていた。殴られ後ろに飛ばされる。飛ばされた先には既に空亡が待ち構えていた。砕けた狐の仮面の破片が宙に舞っている。空亡は飛んできた玉藻前を後ろから支えて胸に腕を突き刺す。
「ッッガハァっ!」
『まずはこれを返してもらうぞ。』
空亡は玉藻前の体の中から小さな球体を取り出した。そのまま、腕を振って玉藻前を振り払う。
「クソッッ!?なんでなんでなんで!?わっちはこんなに強いでありんすよ!……あれ!?」
先ほど玉藻前から取り出したのは、天狐の力の源である。天狐の力を上乗せしていた玉藻前は自分の力が減っていることに気がついた。
「ッッくっ、仕方がないでありんすね!今日はこの辺で引くとするでありんす。」
『待て!!逃すか!!』
空亡の制止すると同時に手刀を繰り出した。逃げる直前の玉藻前に袈裟斬りのように肩から腰あたりにかけて切り傷を残したが、そのまま消えてしまった。
『クソ、逃したか…。やはり、場所が不味かったな。』
空亡はいつもの少年の姿となり、私の方に駆け寄ってきた。
『大丈夫か、未来。』
「…うん…ごめん、ありがとう。」
私はそれしか言葉が出なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます