第二十一話 〜待ち受けていたモノ〜
忘れもしない。
空亡と出会った時、私が陰陽師の世界に足を踏み込むきっかけとなった出来事の中心にいた存在だ。その時は正直何が何だかわからなくて、なにもできなかった。けど今はあの時とは少し違う!
私は陰陽師として駆け出しかもしれないけど、少しは覚悟が決まっている!あわあわしてばかりじゃない!
「空亡!!」
『任せろ!』
その掛け声で、空亡は人型となり、襲いかかってきた肉の塊の拳を受け止めた。
『こんなにすぐ会えるとは思わなかったぞ!この前は逃したが、今日はそうはさせないぞ!』
この肉の塊は、ずんぐりしたり肉の塊にこれもまたずんぐりしたり手と足が生えている。全身真っ白ののぺっとしたこの妖怪は「のっぺらぼう」というらしい。空亡と初めて会った日にちらっと聞いていた。
のっぺらぼうは有名な妖怪で、顔がない人型の妖怪だと思っていたけど、本来はこんな姿みたいだ。
『未来ッ!!とりあえず、これを持っていろ!』
空亡がそう言うと、私に図録を投げてきた。
「わかった!ありがとう!けど、どうしたらいいの!?」
のっぺらぼうは空亡に向け何度も拳を振り下ろしている。空亡はそれを上手にいなし、ダメージを負わないようにしている。体格差があるためか、防戦一方という感じが否めない。それでも、私に助言をくれる。
『今は力を温存しろ!おそらくこいつは本命ではない!!おそらく奴がしむけた刺客にすぎん!本命が何処にいるか確認はできていないから、「索敵」に集中して付近に注意しているんだ!』
のっぺらぼうはゴアぁぁッと叫びをあげながら空亡に攻撃を繰り返している。かたちだけ見ると子供が駄ただをこねるみたいに両手で空亡を叩いているようだが、それが体格2メートル以上の超重量級のお相撲さんだと思うと背筋が凍る。それを全て受け流す空亡はやはり強いんだと改めて感じた。
『前回は不覚をとったが、今回は全力でいかせてもらうぞ!今回は我も未来も覚悟が決まっている。前回と同じと思うなよ!』
空亡はそう言うと、戦闘態勢とでも言うのか、背中に炎の
のっぺらぼうの懐に入った空亡は下からのっぺらぼうの胸の辺りにめがけて掌底を当てた。
その掌底から、ゴウッッ!と炎が立ち上がり、のっぺらぼうを貫いた。
炎はのっぺらぼうの全身に燃え広がり、最後には灰のように風吹かれて消えていった。空亡の攻撃により、消滅したようだ。
「空亡!ありがとう!やっぱりすごいね!!」
私は空亡の方に駆け寄り、賞賛の言葉を伝えた。それと同時に空間が歪んだ。
――ぐわん!――
さっきまで階段の途中にいたはずだが、いつのまにか
正面には神社の本堂があり、後ろには階段のところに最後の鳥居がある。階段から本堂に繋がる道は石畳になっており、本堂の手前には道の両端に狐の像がかたどられた石像がそびえ立っている。
――「パチパチパチ」――
ゆったりとした声と拍手がおり混ざって聞こえてきた。本堂の前に今日の午後パン屋に来たお客さんが立って拍手をしていた。
「やっぱりあんさんは、強いでありんすねぇ。」
ゆったりとした声色だが、少し奇妙に聞こえてゾクッと恐怖を感じた。
『やはりお前だったか、
「え!?
空亡から話は聞いていたが、まさかそんなに大物がこんなところにいるなんて。
「お嬢ちゃん。あんさんはわっちの正体にも気づかんと、ここにいるでありんすか?まあ、ええわ。さっきの余興を見てたらなんとなくわかったでありんす。」
「…ッえ!?」
――スルリ――
「ッッきゃっ!?!?」
急に後ろから指で顎の下から耳にかけてするりとまとわりつくように
「あっはっは!なかなかいい反応でありんすねぇ!」
いつの間にか私の後ろに
『ふざけるのもいい加減にしておけ。』
「あらあら、怖いでありんす〜!」
凄む空亡にも、全然気にしていないかのようにおどけてみせていた。空亡は私を
「ここでやるつもりでありんすか?」
玉藻前は雰囲気を変え、言葉に力を持たせたように話をした。厄の幹部が相手なんて……。空亡も幹部だったみたいだけど、幹部の序列については聞いてないから強さの違いはわからない。今戦ったところで勝算はあるのだろうか?
『未来、「索敵」を忘れるな……!』
ボソッと助言をしたかと思ったら、空亡と玉藻前が姿を消して、拳と拳がぶつかり合う音が聞こえる。目には見えない速さで両者のぶつかり合いが始まったようだ。
「…うわぁ!」
両者の戦いの圧に耐え切るために足に力を入れて踏ん張る。私にはなにをすることができないけど、自分の身は自分で守らなければ、空亡が戦いに集中できない。私は「索敵」に集中しながら、勝負の行方を見ていた。そんなことを考えていると、頭の中に話しかける声が聞こえた。
――『こっち…こっちに来てくれませんか。』――
――『あなたの力をお貸しください』――
頭に聞こえる声に返事をする。
「え!?誰!?もしかして、この神社に封印されている妖怪?」
この地にも炎烏天のように妖怪を封印するために同時に封印された妖怪がいるはずだ。その方の声ではないのか!?
――『ええ、私は
「え!?本当ですか!?妖力を放つとはどうすればいいの?」
――『念じれば大丈夫です。妖力を感じ祠に向かうように念じるのです。』――
「わかった!念じてみる!」
私は天狐に言われた通りに祠に向け妖力を送るように念じてみた。少しすると祠からガガッと音が鳴り妖力の煙が出てきた。
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