第十九話 〜現れた者〜

お母さんに回復をしてもらいながら、その力の流れを感じていたら、なにやらみんなに驚かれてしまった。


「今日陰陽師の力を覚醒させたと思ったら、力の流れを把握するし、ましてや回復の術式を理解するとはな。」


 お父さんは規格外だと感じたらしい。


「昼間に教えたけど、今感じたのが、術式というもんなんだ。回復の術式は特別複雑なんだ。」


 げ、またなんかやらかしたみたいだ。


「でも術式って言葉に出すものじゃないの?」

「いや、言葉は呪文とか祝詞のりと真言しんごんかな?本来言葉はいらないんだが、より効果に力を持すために言葉で力を増幅させているだけだ。事象を起こすだけなら術式を理解していれば問題ない。」


 お父さんは説明してくれた。


「今日の修行で教えた力を練るって作業だが、これは術式を構築する前段階ってところだ。力を練って術式を構築して初めて効果を発揮する。この術式は覚えている事が前提なんだが、稀に感じ取る事ができる人がいる。それにしても、力の性質はまだ掴めないのに術式を理解するとはな。ほんとおかしいやつだ!」


 おかしいやつだと言われてしまった。娘なのに……。


「まだ術式は早いとか思ってはぶいたが、感じ取れるなら話は早いな。明日からは術式を混ぜて修行しよう。術式は力の性質を理解していないと感じるのも難しい。多分、未来は本能的に力の性質を感じているんだろう。無自覚にな。とりあえず、今日の感覚を忘れないようにな!感覚を掴んで力の性質について実践で覚えていこう。」


 なんか腑に落ちないけど、まあ、才能がないよりはいいよね!明日からは普通に仕事もあるし、ハードになってくるぞー!

…と言うことで今日はもう休もうかな!


「はーい!忘れないように気をつけます!明日も早いから今日は先に休むね!おやすみなさい!」

「おー、おやすみ!」

「おやすみなさい!」


 両親におやすみを告げ、自分の部屋に空亡を連れて戻った。空亡は睡眠はとらないけど、少し考えたいことがあるといい黙りこくってしまった。今日は色々あったから頭の整理が必要なのかな?

 正直私も整理したいくらいだ。でも、もう眠くなってきた……。


「おやすみ……。」

『ああ、おやすみ。』


 空亡が答えてくれたが、睡魔には勝てずに微睡にふけっていくて……。


-----


 翌朝――AM4:00


 ピピピピ――ピピピピ――ピピピピ――……


 スマホのアラームが鳴り、私はスマホに手を伸ばし、慣れた手つきでアラームを止める。

 もう少し眠りたい気持ちを振り払って、ベッドから降りる。洗面台へ向かい、顔を洗いメイクをする。そこまで濃くはなく、それでいて薄すぎない絶妙なメイクを施す。朝ごはんを用意して朝ごはんを食べる。流石にこの時間だと、両親も起きてはいない。少し物音に気をつけながら行動を行う。


 パン屋の朝は早く、AM5:00が出勤時間だ。今日は平日だし、そんなに激混みはしないと思うが、新商品が陳列するからそれ目当てのお客さんが来る可能性はある。少し前に試作食べさせてもらったけど、すごく美味しかった。お店の商品紹介のポップ作成は私の仕事だから、美味しさと説明をふんだんに込めて作成した。いっぱい売れるといいな。


 そんなことを考えていると出勤の時間になった。うちから職場まではそんなに遠くないけど、歩きだと遠か感じる距離だ。今日は自転車で行こう。と言うことで、家を出た私は自転車を出し、職場へ向かうことにした。

 なんかすごい久しぶりな感じがする!休みを挟むとそんな感覚を得るが、今回の休日は濃密すぎた為か、久しぶり感が半端じゃない。


「おはようございます!」


 私はパン屋に入り、挨拶をする。


「おーう!おはよう!着替えたらちょっとこっち手伝ってくれー!」

「はーい!わかりましたー!」


 社長が仕込みをしているのだろう。厨房の方から挨拶が返ってきた。それに併せて手伝って欲しいとのこと。やっぱり慣れた職場ってなんかいいな!今日も頑張りましょう!!


-----


 ――PM2:00――


 出勤前のラッシュとお昼のラッシュを過ぎて、今は少し暇な時間になった。今日からの新商品も売り切れて、新しいものを焼いている。夕方のお客さんのために準備を行う時間って感じだ。この時間はほんとに人が少ない。

 そんな中、お店の中パンを入れておくバスケットに見慣れたものが置いてある。それはキランと擬音をたてるかのように、ツヤツヤで丸い球体だった。


「……ちょ!?ねえ、空亡!?なんでこんなところにいるの!?」


 私は店のみんなに聞こえないように、少しボリュームを落とした感じで、バスケットに入った球体に近寄り声をかけた。その球体はもう言わなくてもわかると思うけど、空亡であった。


『なに、未来の働く姿が気になったまでよ!』


 呆然とした私は、あっけらかんとそう言い放った空亡を抱え、少し話しやすいレジ付近にささっとおいた。


「え!?ちょっといつからいたの!?」

『未来が家を出る時に鞄に紛れ込んでいたのだ。ここについた時点でさっきのバスケットに入って様子を伺っていた。』

「うわー、朝からいたんだ…。気づかなかったー。言ってくれれば連れてきたのに。」

『いやなに、素の姿を見たかったからな!言ってしまったら気にするだろう?』

「うーん、まあ、気にはなるけど…。とりあえず、今日はその棚の上で大人しくしてて!仕事終わったら一緒に帰ろう!…というか、よく気づかれなかったね!?」

『まあ、我の存在は現世のものには基本的に認識できないからな。未来やご両親のように妖力に対する感受性が高いものでないと認識すらされんはずだ。』

「なるほどなー。」


 そんな話をしていると、お店の入り口が開きお客さんが入ってくる音がした。

 

 ――カランカラーン――


「いらっしゃいませー!」


 今はPM2:30、あまり人が来ない時間帯ではあるがちらほら人が来るような時間帯だ。

 今日は綺麗なお姉さんが来店した。綺麗めな格好で、これからパーティーでもあるのかと思うような、少し場違いな感じのお姉さんだった。

 お姉さんはうちのパン屋名物の塩パンを手にしてレジまできた。


「お願いします。」

「ありがとうございます。塩パン一点で100円になります。」


 いつものようにレジスターを操作しレジ対応をしていると、


「今日の逢魔時おうまがとき、ここまできなんし。」


 と言って100円と地図の書かれた紙が置かれた。


「…え!?どういうことですか?」


 っと顔を上げたが、そこには誰もいなかった。

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