第八話 〜安倍晴明の子孫〜
私は、旅行から帰ってきた両親と1週間ぶりの再会を果たした。
「特に変わったことはなかったかー!?」
父が問いかけてきた。普通に娘を気遣っての言葉だろう。
「うん、普通の毎日だったよ!奥さんがお弁当くれたから助かっちゃった!」
『お初にお目にかかる、我は…』
ッッ!!!??
全員がギョッとした目でひとつの球体に目を向ける。両親と私で異なった感情で1点を見つめた。
父と母は球体が喋ったことに驚いたようだ。
私はなんで今この場で喋ろうかと思ったのかな!!?って感じで。
『…空亡と申します。以後、お見知りおきを。』
「いやいやいや、なんで今喋るかな!?ちょっと考えれば驚くってわかるよね!?」
私は空亡を常識はずれだと叱責した。しかし、平安時代においては意外と普通の事とも考えられる。空亡としてはなにか考えがあったのかもしれない。
『行動を共にするにあたり、ご家族には誠意を見せておかんといかんだろう。』
「まあ、そうだけど、物事には順序というものがあるでしょう!?球体がいきなり喋り出したら誰でもびっくりするって!?」
『しかしだ、隠しておいても行動に制限がかかってしまうし、未来も気持ちが辛かろう。』
「わかるけど、タイミングってあると思うんだよね!?
あ、あのね、お父さんお母さん!これにはちょっと事情があってこれから詳しく説明するから、ちょっと時間もらっていい…か…な??あれ?どうしたの??」
さっきから父と母は黙って空亡を見つめていた。さっきまでの驚いた顔ではなく、なにか思い詰めたような考えているような、そんな顔だ。
そんな父が、覚悟を決めたように私の方を見た。そして、話を始めた。
「未来、空亡殿。こうなったからには話をしておこう。」
「え!?なに!?なんで納得しちゃってるの!?」
急に全ての事情を悟ったかのように話し始めたので、思わず突っ込んでしまった。
「あなたが決めた事だし、何も言わないわ。お茶を淹れるから、みんな座ってちょうだい。」
母も何やら覚悟を決めたように振る舞い、会話の席を提案してきた。
2人ともどうしちゃったの!?
そんな中、父が話を切り出した。
「空亡殿。私は安倍晴明が嫡流、土御門家第35代目頭首、
いつになく真剣な面持ちの父だ。
『そうか、伝承は続いておったのだな。』
「はい、しかし、申し訳ない。未来には普通の道を選んでほしく、私の代で伝えるかどうか迷っているうちに、今日まで来てしまいました。」
お父さん、そんな事考えていたんだ!?
え!?て言うか、なに!?そう言うこと!?
少し察した。本当に自分は陰陽師の子孫だったのだ。
『無理もない。この重い責務を我が子に担わせたくはないであろう。』
空亡もなんか重役のような振る舞いだ。
「ご理解いただきありがとうございます。ですが、我が娘が空亡殿と関わってしまった以上、伝承は伝えておくべきでしょう。」
さっき覚悟を決めたのはこれのことか?と思った。
『むしろ、こちらが巻き込んでしまったようで申し訳ない。』
「いえ、これも土御門家の使命といえば、致し方ありません。」
正直、土御門家の使命と言われてもピンとこないけど、空亡と協力することは決めている。それが土御門家の使命と直結するなら一石二鳥かな!
『では、土御門家に伝わる責務のことを教えてもらいたい。』
「はい、平安の世に起きた百鬼夜行による大戦の後、安倍晴明はこんな事を後世に伝えることとしました。
『私達の封印は1000年の後には綻びを生じるだろう。時がきたら、私の盟友である空亡が我が力を受け継ぐものと共に現れる。それまではこの言葉を後世に伝えて欲しい。やるべきことは我が盟友が教えてくれるだろう。』
この言葉を後世に伝えるのが私達の責務でした。
私の代で責務を果たせることを嬉しく思います。しかし、未来は完全に当事者となり、辛い戦いに身を投じることになるかと思うと、歯痒くもあります。なぜ私ではなかったのかと。」
『有元殿。これまでの責務、大義であった。娘さんの無事は我に任せてもらいたい。確実に守ってみせよう。』
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
私は今のところ置いてけぼりではあるけれど、話はわかった。そして、これからは空亡とやれることをやればいいとのことみたいなので、問題はないだろう。
「あと、これは特に伝える必要はないのだが、ずっと伝えられている言葉もあります。
『空亡は最高の友だ。この別れは寂しくもあるが、空亡には全てを任せられる。またいつか相見あいまみえよう。』
空亡殿への信頼は厚かったみたいですな。
この言葉は代々空亡殿へ会えたものが伝えようとして残しておりました。」
『…そうか、あやつめ…。』
空亡の声は寂しそうで、嬉しそうであった。きっとこの1000年の歳月をご先祖様のことを思い生きてきたのだろう。私には完全に理解はできないが、本当に嬉しいだろう。
「私からお話しできることはそんなところになります。」
『ありがとう。』
「未来。」
急に話を振られて少し驚いてしまった。
「ッッ!?え!?なに!?」
父は話を続けた。
「こうなったからには、未来にも陰陽師について教えていかないといけない。」
「陰陽師についてって言ったって、お父さん陰陽師じゃないでしょ?とりあえず言葉を伝えるのが土御門家の仕事じゃなかったの?」
疑問に思ったことをそのまま伝えた。
「確かにそれが1番の責務ではあったが、何も陰陽道が伝わってなかったわけではない。お父さんは整体をやっているが、うちに来る客は妖怪の影響を受けている人達が来ているのだ。
陰陽道の力を使って、体内に残った悪い妖力を追い出し、身体を整えるのが本来の目的なんだ。」
え!?そういうこと!!?
「え!?そうだったの!?全然知らなかった。」
「まあ、言っていなかったしな。妖怪と言っても現代では信じられていないから、秘密裏に病院等と連携をとって対応しているんだ。表向きは普通の整体院としてな。今回の旅行も本当は地方からの要請で治療に行っていたのだ。」
「そうだったんだ。ちょいちょい旅行行ってたけど、そう言う事情があったんだね。」
『未来、ちょうどいいではないか。未来が力の使い方を学べれば我も助かる。』
「確かにどうしようかと迷っていたところだし、ちょうどいいとは思うけど、頭が追いついてない感じで…。まあ、お願いします!」
「わかった。では今日から早速始めよう。」
と言うことで、今日から早速、陰陽師の力の使い方を教えてもらうことになった。
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