第七話 〜空亡の過去と未来〜

まず、私と空亡は家に帰って怪我の治療をした。


『すまぬな。怪我を負わせたにもかかわらず、我の助太刀すけだちまで頼んでしまって…。』

「もういいって。空亡は選ぶ余地を与えてくれたよ。これは自分で決めた事だから!」


空亡は帰路に着くと、何度も謝罪を繰り返した。命の危険があることをよくわかっているからこその言葉だろう。空亡の人柄、いや妖怪柄が良いことがわかる。


『かたじけない。』


そう、これは自分で言い出した事だ。

自分から空亡に協力したいと思ったんだ!命の危機とか、怪我とかは怖いけど、そのまま放置したら人類が危険なんだ。なんで私なんだっていう気持ちもある。それは嘘じゃない。だけど、今は空亡に協力してあげたいって気持ちの方が大きい。きっと空亡は何百年も人間のことを考えてきたんだから。


「いいよ!」

『さて、協力するとなったからには我のこと、常世の現状を話しておく必要があるな。』


それから空亡は自分のこと、常世のことを教えてくれた。

……


『我のことを説明する前に、常世について話する。現在の常世はある一組の組織によって統制が取られている。それが、炎烏と話していた百鬼夜行の「やく」という組織だ。

平安の世で悪行の限りを尽くした「やく」は当時の陰陽師により現世うつしよから追い出された。

この時、晴明と共に我や炎烏達で「やく」を追い払った。この戦が「大戦たいせん」というやつだ。』


「あー、なるほど。「大戦」ってそれか!百鬼夜行って史実で語り継がれているやつと考えて良いのかな?」


『ああ、その百鬼夜行と考えて問題はない。

百鬼夜行とは本来、常世の霊達が現世に残した者たちの様子を見たりするのが目的であり、人間たちには影響が出ないものであるはずなのだ。

しかし、「厄」という集団は人間たちに害をもたらすという目的で、百鬼夜行という手段をとったのだ。

そして、妖怪専門の討伐隊である陰陽師が朝廷から派遣され、対処に応じたのだ。

陰陽師は己の術を使って妖怪を退治するが、数が数だけあって手が足りないところを、人間に協力的な妖怪を使役して戦った。

最終的には陰陽師側の勝利となり、「厄」は常世に帰っていった。

だが、「厄」の暴挙はそれだけではすまなかった。

常世に追いやられた後、改革が起きた。

以前、常世は閻魔大王の管理の元、統制が取られていたが、「厄」は集団で閻魔大王を襲撃し牢獄へ監禁し、常世の住民には閻魔大王が失脚したと偽りの情報を流し、支配することを宣言した。』


空亡は現状の常世の様子を話してくれた。


「なかなかすごい話になっているんだね。閻魔大王って大丈夫なの?」


現実の世界でもよく聞く名前だけに気になって聞いてみた。


『閻魔大王はそう簡単には消滅せぬ。束でかかったとしても、監禁で精一杯だったのだろう。不意打ちということでもあっただろうしな。』


そうか。こっちの世界に知られてる妖怪ってそれなりに強いのかな?


『続けるぞ。常世の者達も「厄」にはなかなか手を出せず、素直に従うしかない状況なのだ。頭首とそれに連なる幹部達が常世の最大戦力と言っても過言ではない。特に頭首は桁外れだ。


構成だが、

頭首の山本五郎左衛門さんもとごろうざえもん

幹部が4人、

崇徳上皇すとくじょうこう

酒呑童子しゅてんどうじ

玉藻前たまものまえ


そして…


我、空亡そらなき。』


「ッッえ!?!?空亡!?幹部だったの!?なんで!?」


びっくりしすぎて心臓止まるかと思った!


『そう、ここから我の話に入るとしよう。妖怪は妖力の集合体であり、ある特定の形を持っているわけではない。だが、己が己である本質というものがある。

本質は基本的には変化せず、妖怪の区別をするときには本質を感じ取る必要がある。

しかし、我は例外でその本質を500年に一度きりだが変えることができるのだ。まあ、隠密に向いているということかのう。

我は晴明と話し合い、図録を持ち「厄」に紛れて密偵として活動しておったのだ。』


「なんで、図録を持っていく必要があったの!?」


『図録の左頁には妖怪が描かれているが、それに効力を持たせるためには実際にその妖怪がいる世界、つまり常世でその妖怪の妖力を充填しなければならないのだ。膨大な時間を常世で過ごさなければならない為、結果的にそれが晴明との最後の別れだった。』


そっか、それで、ご先祖様の話をしたとき少し寂しそうだったんだ。


『晴明はいつかのことを思い、図録を残し、我に託した。我はこの思いに応えなければならない。…苦渋の決断であった。

我は自分の本質を変え、「厄」と共に常世に行くことにしたのだ。

晴明は最後に


「空亡…、未来みらいをお前に託す。」


と言い残した。

これは、未来みくのことを言っていたのかもしれんな。』


「え!?どういうこと!?」


『晴明は「自分の力を未来みらいに残す」と良く言っていた。この時代に未来みくという名を得て、晴明と同じ力を宿した子孫である其方そなた以外にあるまい。』

「でも、読み方が違うよ?」

『力というものは何も読みにだけ残るものではない。漢字が同じであれば十分だ。』

「なるほど。」

『つまり我は未来みくを託された訳だ。』

「そっか。随分大変なものを託されちゃったね!?」

『なに、我と晴明は相性が良かった。きっと未来とも仲良くやっていけるであろう。』


最初に会った時よりすっごい打ち解けてきたと確信する。この気持ちに応えてあげたいなあ!


「そうなると私もご先祖様の力を最大限に引き出せるようにしなくちゃならないね!?」

『確かにそれは願ってもないことだが、流石に陰陽師の力の修行法は我にもわからぬ。

まあ、そんなことで、密偵としてやっていたが、遂に頭首が今回の計画について遂行の準備を始めると言い出したのだ。

図録の妖力充填も充分であった為、図録を持ち出し現世を目指したという訳だ。』


「そうか、そういう事だったんだね。長い間頑張ってきたんだね。空亡すごいと思う!尊敬する!」

『そうか、ありがとう。晴明に言われているようで無性に気恥ずかしいな。』

「照れてるの…!?」

『からかうな…。』

「あはは!!」


冗談も言い合える仲ってところかな!!

嬉しくなってきちゃった!

でも、私も覚悟は決めた!なんとしてでもやってやる!


…ガチャガチャ…ガチッッ!


そんな時玄関の鍵が開く音がした。

え!?誰だろう??


…!!!


「あっ!?今日お父さんとお母さん帰ってくる日だ!!?」


…ドタドタドタドタ!!

バン!

と足音と扉を開く音が響く。


「ただいまーー!!帰ったぞー、我が娘よー!!」

「なにが我が娘よ。普段はろくに話もしないくせに。」

「いや、仕事が大変だしさー。つい疲れてすぐ寝ちゃってるだけだろー!?」


父と母が帰ってきた。

こんなことを言っているが、特別父と仲が悪いというわけでもない。確かにそんなに話はしていないとは思うが、2人の仕事の都合上仕方がないとも思っている。

 

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