第五話 〜初陣〜
ブシュー…
という音と共に祠から妖力が吹き出し、形を成してきた。
妖力の塊はみるみるうちに巨大な蜘蛛の様な形を成し、前面には鬼のような形相の顔が形成されている。
『…ッッ!?未来!この図録を持って住職のところへ急げ!』
空亡が急に少年の姿となり、図録を私に渡して促してきた。
『事情は伝わっていなくても、子孫である可能性は高い!図録を使用できるかもしれん!時間はないが、此処へ連れてきてくれ!出来るだけ時間を稼ぐ!!』
少年の姿は戦闘用とでもいうように、構えて妖怪に対峙する。
「ッッ!?わ、わかった!」
正直、訳もわからぬ事態に焦りながらも必死になって状況を理解しようと頭と体を動かす。
空亡は妖怪の方に注意を向けつつ、私の方には被害が及ばないように、位置取を行う。
「土蜘蛛よ、我が相手をしてやろう!」
土蜘蛛と呼ばれた大蜘蛛の妖怪は懐かしむようにその8つの目を細めて笑い出した。
「は、…ははは!!久しぶりの現世の匂いだのう!何百年ぶりかのう!忌々しい封印も解けた矢先に邪魔者がおるとはついてないのう。」
『懐かしんでいるところ申し訳ないが、また眠ってもらおう!』
「ははは!!まあ、そう言うな!楽しもうではない…か!?」
その言葉を合図にしたかのように、両者が一瞬のうちに距離を詰め激突した。
土蜘蛛は8本ある足のうち後ろの4本で地を掴み、前の4本で攻撃と防御を行う。
空亡は最初に出会った時の姿とほぼ変わらないが、背に
ただ、手数が無い分、防戦一方だ。
ほんの僅かな時間での攻防は両者の
両者の攻防が激しく続く中、土蜘蛛の口から糸が吐き出された。
空亡は咄嗟に体を捻り避けるが、足に直撃してしまい、粘着性の糸が大地と足を固定し身動きが取れなくなった。
片足の自由が奪われたことで、攻守のバランスが崩れ、土蜘蛛の一撃を腹部にくらってしまう。
『…がはッ!!』
「おやおや、どうしたどうした!?わしは寝起きなのだぞ??」
蜘蛛の糸により固定されていた足も土蜘蛛の一撃には耐えきれずに後方に飛ばされてしまった。飛ばされている中でも体勢を整え、倒れないように踏みとどまる。
『ふむ、やはり、なかなかに強いのう。』
「なにを余裕ぶっておるのだ?」
『これくらいの力なら今の我でも勝負にはなるだろうて。』
「ふん。言っていろ。それで、あれは守らんで良いのか?」
土蜘蛛が示した先には土蜘蛛の糸に足を拘束された未来が横たわっていた。
『…なッッ!?』
「我が
先ほど自分が避けた糸の他に未来に向けて糸を出していたようだった。
「やはり普通の人間はとろいのう。止まって見えたわ。」
『我との戦いに専念してると思わせつつ、未来を狙っておったのか。姑息な!』
「なに、相手の弱点を狙うのは当然のことであろう!」
土蜘蛛によって生み出された蜘蛛の眷属達が、未来に向かって歩き出していた。
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〜少し時間は戻り〜
空亡から図録を託された。
まだ本当に短い付き合いだけど、切り札とも呼べる図録を私に託してくれた事は、私を信頼してくれているって事だ。
私は空亡のそんな信頼に応えたい!
今は私しかいない!絶対に空亡を助けてみせる!!
「…待ってて…!」
私の後ろでは激しい攻防が繰り広げられているのが音と空気の振動から伝わってくる。
その時、一段と大きな振動が聞こえ、感じた。
その瞬間、私は衝撃と共に地面に横たわっていることに気がついた。
絶対に図録だけは離さないと、抱き抱えていたため、肩からダイブするように倒れたみたいだ。
「…え!?あ、痛ッッ!あれ!?足動かない!」
自分の足を確認すると土蜘蛛が吐き出した糸が自分の足を固定しているのが見えた。
「…うそッ!」
土蜘蛛の方を見ると、空亡も大きく後ずさっており、さっきの衝撃は空亡が吹き飛ばされた音だったと確信した。でも、空亡は大丈夫そうだ。
空亡がなにやらこっちをみて狼狽えているのが見えた。
自分の周りに妖力が渦巻き、渦の中から、土蜘蛛ほどでは無いが、1メートルほどの蜘蛛の妖怪が生まれてきていた。
「うそうそうそ!待って待って待って!!」
私は狼狽えた。それと同時に悔しさも滲み出ていた。このままでは私は空亡の信頼を裏切ってしまう。そんなのは絶対に嫌だ!!だけど、正直どうしていいかわからない。もう、おしまいなのか…。
……
…
ごめん、空亡…
………
……
…
『図録を開け』
…
……
………
「…え?」
急に頭に声が聞こえた。
『助かりたいのだろう、助けたいのだろう。ならば、図録を開き、我の言葉を唱えよ。』
なんだろう、わからないけど、嫌な感じはしない。言葉を復唱すればいいのか。
『我が命ずる。』
「我が命ずる。」
図録が一人でに輝きだし、頁が開く。
『我を、人を助けんが為に力を貸せ。』
「我を、人を助けんが為に力を貸せ。」
図録がある頁で止まり、風が集まってくる。
『 汝なんじの名は、
「汝なんじの名は、炎烏天 《えんうてん》。」
その瞬間、周りにいた蜘蛛の妖怪達は霧散した。
『
「
最後の言葉と同時に図録から祠のあった場所へ光が飛び出し、祠を中心にして眩い光で満ちた。
「うわあ!」
『未来!大丈夫か!?』
土蜘蛛が祠に気を取られているうちに、私のもとに来て尋ねた。
「…うん、大丈夫。なにが起きたの!?」
『それはこっちが聞きたいものだ!一体なにがあった!』
「いや、なんか蜘蛛達がこっちにきて、やばいーッッてなってる時に、頭になんか声が響いてきて、その声に従ったらこんなことになった。」
実際にその通りだ。起こったことを正直に話した。
その時、祠の方から頭に響いたのと同じ声色の声が聞こえた。
「それは、わしから話すことにしよう。だが、今は此奴をどうにかすることが先決だな!」
『ッッ!お主は、
2人?は旧知の仲なのかな?両者の掛け声と共に、炎のによる丸いドームよのうな囲いが土蜘蛛をとり囲む。
「な!?また、わしの邪魔をするのか、炎烏天!?」
土蜘蛛は炎烏天を毛嫌いしたように振る舞っている。
『今回は我一人では無いのでな!滅してくれるわ!』
炎烏天は土蜘蛛には有利な立ち位置にいるらしい。そういえば、図録からなにか出てきたけど、土蜘蛛の弱点って炎烏天の事なのかな?
『そうだな!今回は我もいる!』
空亡も炎烏天に協力を惜しまないつもりらしい。
空亡と炎烏天の両者によって制御された火の囲が徐々に狭まり、遂には土蜘蛛を呑み込んだ。
「ぎぃやああぁぁあああぁぁぁぁ…!なぜだぁ!!糞!!だが、まだ終わりでは無いぞおぉおお!覚悟しておれぇぇえぇぇ………。」
土蜘蛛は炎に飲まれて、消滅した。
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