第二話 〜その者、空亡《そらなき》〜

 整体院の扉を開けたところで、なにかが破壊されたような大きな音が響き渡った。

さっきまでパンパンくらいで花火の音かと思っていたのにいきなりなんて音だ!?

と、こんな感じで最初の場面まで戻ります!!


------

 

「ねぇ!?さっきの何!?え!?何何!?!?」


 少年に話しかけるが、返答はない。

先ほど吹き飛ばした肉の塊の様子を見ている様だ。


「…チッ」


 少年の舌打ちと共に投げられた白い肉の塊のそばに妖艶ようえんなと言うのがお似合いの着物姿の狐の仮面をつけた女性が現れた。

 その女性は見る者全てを魅了しそうな見た目ではあるが、人間とは明らかに違う部分があった。


ーー狐の様な尻尾が9つ生えていたーー


「ここはいったん引かしてもらうぇ。」


 狐の仮面の下から妙に緩やかだがはっきりとした声がかけられた。それと同時に風が肉塊と狐の仮面の女性に向けて集まっていく。


 私は思わず目を閉じてしまった。


 風が止み、閉じた目を開けたその先には少年の後ろ姿しか残っていなかった。


「え、何だったの…!?」


 もう、何がなんだかわからないとしか言えなかった。

 今まで、色々なこの世在らざる者達を見てきたが、今回の件は規格外だ!!?

 さっきの肉の塊も狐仮面も少年も何もかもが規格外だ!

 とりあえず、少年はまだ残っているから説明してもらいたい。が、素直に答えてくれるだろうか。襲ってきたらどうしよう。でも、さっきはかばってくれたみたいだったし、大丈夫かな?と、色々考えているところ、少年がこちらに振り返り、ふらっと力なく倒れてしまった。


「ちょっ、ちょっと!大丈夫!?え!?どうしたの!?」


 少年の方に近寄り、間近で観察できた。

 少年の額には三又みつまたの角が2つあり、髪の毛は燃えるような赤色で、本当に燃えているかの様にススのようなものが上がっている。

 着ているものは白い和服の袴の様だが普通の生地ではなさそうだ。歳は15、6歳くらいの見た目だ。胸の辺りに熱く光る球体の様な物があるのが服の上からわかるくらいに眩く光っている。

 きっと彼もこの世に在らざる存在なんだと改めて確信した。


「はっ!じっくり観察してる場合じゃない!?とりあえず、ちゃんとしたところに寝かせてあげないと!?」


 少年を担ぎ整体で使用している施術台の上に置こうとしたが、少年に触れることができなかった。


「あれ!?どういうこと!?」


 その時少年の胸の光がさらに輝き出した。


『…すまぬ、この身体はこの世のものには触れられんのだ。』


 いきなりの輝きと同時に声もした。


「っはッ!!ビックリした!?急に話しかけないでよ!?」


 私はいきなりの声に驚いて悪態をついてしまった。


『…重ね重ねすまぬな。しばし待たれよ。』


 その声に呼応する様に、少年の体が胸の光に凝集し、球体となった。その球体の中に太陽があるかの様な印象だった。


『これで触れられよう。部屋を荒らしてしまってすまぬな。』


 その少年は度々謝罪をしてくる。とても礼儀正しい人だなと感じた。


「あ、ありがとう。いや、まあ、部屋は大丈夫だよ。あんだけ暴れまわってたのに不思議とほとんど壊れてないし。」


 そう、さっきまでどんぱちしていて、色々壊れていたと思うけど、気づいたら部屋は元通り、少し物が落ちていたり、大きめの地震の後って感じだ。


『常世の者達が争う時は、基本的には現世に影響がないのでな。だが、完全とまではいかない為、多少の影響が生まれることがある。所謂ポルターガイストみたいなものであろう。』


 ポルターガイストってそういう影響なんだ!?


「な、なるほど。え!?じゃあ、あのパンパン言ってた花火も君たちがバチバチやってた音!?」


 自分の部屋から変な音が気になってここにきてみたし、現実の世界に影響したんだろうな。


『現世にどの様な影響を与えてたかは定かではないが、その可能性が高いのぅ。お主がこの部屋に入って来たのと同時に常世の者同士の争う空間に紛れてしまったのだろう。』


 妖怪の少年は丁寧に説明してくれた。


「そうなんだ。で、あなたは無事なの?味方なの?味方なのって聞くのもどうかと思うけど。」


 とりあえず、私はここにいていいのか?この話を聞いてもいいのか?疑問が出てきた。


『完全に問題がないとも言えんな。先ほどの狐仮面に少しばかりやられたからのぅ。後者は問題ない。我は人間の味方だ。信じてもらえるかはわからんがな…。』


 信じるか信じないかはあなた次第って感じだけど、敵ではなさそうか。


「そっか!命助けてもらったこともあるし、信じるよ!でも狐仮面ってさっきの美女でしょ!?あの肉の塊連れて帰っただけじゃないの!?何かされたの?」


 一瞬の出来事だったし、目も閉じちゃったから何があったかはよくわからない。


『あやつは、帰ると同時にお主に攻撃しおった。我とお主、同時にな。我が人間を見殺しにできんのを知っての所業しょぎょうだろう。お主を守るのに精一杯で奴の攻撃を少しくらってしまってのぅ。…だが、安心せい、致命傷ではない。2、3日休めば問題ない。』


 そうか、あの風の時かもしれない。


「え!?ごめん!?私のせいで…」

『だから、問題ない。我が弱いのが悪いのだ。』

「…でも…」


 私の表情に気を遣ってくれたのか、返答してくれた。


『まあ、悪いと感じているのであれば、我を少しここで休ませてはくれぬかの?流石にすぐに出立しゅったつとまではいかんのでな。』


 球体からは慰める様な声色で提案してきた。


「それは全然OKだよ!むしろ、こっちから提案すべきだったね!…うわ!ヤバい!もう4時半!?準備しないと仕事遅刻する!?」


 部屋の片隅にある時計が目に入って、その時計が示す時間が予想外の時間で驚いた。


『あやつらは基本は夜にしか活動できん。あの肉塊のこともある。そうすぐには活動をしないだろう。安心するといい。』


 妖怪の少年は私に付け加えるように狙われることはないと安堵させてくれた。


「そっか!よかったー!!じゃあちょっと準備しちゃうから部屋まで連れていくね!」

『ありがたい、申し遅れたが、我は空亡そらなきと申す。』

「あ、確かに名乗るの忘れてた。私は未来みくって言います!よろしくね!空亡!」


 それから、私は空亡を部屋に連れて行き、仕事の準備を速攻で終わらせて出勤することとした。

 たった1時間の出来事だけど、とてつもない経験をしたもんだと改めて感じた。

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