第二話:「私、化け物になった推しに!!絶対殺されたい!!!!」

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『新宿区において人間が怪奇化する謎の現象が起こっていることを受け、東京都は新宿区を封鎖することを決定しー』


テレビから流れるニュース。新宿、さっきまで私がいた場所。

「えっ危なかったね!もう少し出るの遅かったら巻き込まれてたよ」

隣の友人が私に声をかける。


「…………私、新宿行ってくる」

「えっ」


驚いた顔。それはそうか、今まさに危ないから近寄るなってテレビでアナウンサーが言ってるんだもんな。


「何言ってんの!?危ないって!」

「だって!!」


感情を声に乗せて叫ぶ。


「推しが!!新宿にいるかもしれないの!!」

この世で一番大好きな推し。誰よりも大切で大好きな人が、あの場所にいるかもしれない。


「推しが危ない場所にいて!化け物になってるかもしれないってことでしょ!?そんなの…」


口角が上がって笑顔になっていくのがわかる。


「そんなの最高じゃん!!!私、化け物になった推しに!!絶対殺されたい!!!!」



――――――DAY2――――――



目が覚めると、薄暗い照明、血生臭い匂い、寝心地の悪いソファの感覚があった。続けて、肩に痛みが走る。


「いっ……」

「まだ動いちゃダメ」


相変わらず感情があるのか分からない平坦な声をした、詩音が覗き込んでくる


「応急処置しかできてないから、お医者さん探してくるから待ってて」

「いるのかよ、こんな状況で。」

「外に出てみないとわからない」

「外ねぇ」


怪我をしていない方の手を動かし、テーブルの上にあったリモコンをとる。赤いボタンを押し、テレビをつけると昼のワイドショーがこの街のニュースを流してた。


「新宿で流行ってたドラックが化け物を生み出してて、この街を7日間封鎖。その間に対策を考えるって。薬飲んだやつこの街以外にもいるだろ、対策ずさんじゃね?」


コメンテーターが生き延びてる人達はとか、人権がどうとか話してる。そりゃそうだ。


「ここに来るまで、街の様子どうだったの」

「化け物がいたり、死んでる人がいたり、面白がってる人がいたり」

「地獄じゃねぇか」


俺が外にいたときは全然そんなことなかったのに、数分でそんなことになんのかよ。

思考を巡らせていると、ガタ、と店の入り口の扉が開く音がした。詩音が傍に置いていた包丁を手に取り立ち上がる。


「誰?」


綺麗な顔を歪ませ、扉を睨みつける。扉からはひょこっと、ちょっと芋っぽい背の小さめのショートボブの女が顔を覗かせてきた。


「えっと…あの…」

「逃げてきたの?」

「あ、はい!あの。人を探してて。青髪で、たぬき顔っぽい男の子なんですけど。ここの常連って噂聞いたときあって。いないかなって思って。」


話しながら中に入ってくる。俺の肩を見て、「うわぁっ」と声を上げた。


「血まみれじゃないですか!見せてください!」

「処置できるの?」

「私、医者なんです!今日ニュース見てここに来たので、持ち運べる道具も全部持ってきてます!」


詩音と顔を見合わせて2人して「え、」と声を上げた。


「初対面で信用できないのもわかりますが!早く肩を見せてください!」

「いや、助かるけどそれより、君外から来たって、今閉鎖されてるんじゃ」

「別にシャッターが降りるわけでもないんですから、厳戒態勢で電車も止まってはいますが抜け道なんていくらでもありますよ。化け物も、意外と逃げ足が早ければなんとかなります。」


ってことは。俺たちもここから出られるってことか。


「詩音、ひとまずこの街から出よう。命がいくらあっても足りねぇし、細かい話はそれからだ。」


伝えると、彼女は納得できないようなむすっとした顔をした。


「……なんだよその顔」

「安全なところへ行ったら結婚できない」

「いや、約束してねぇから」

「吊り橋効果狙ってたのに」

「それ本人に言うか?」


呆れた。全部殺してあげるから、っていうのは本気だったらしい。


「ねぇ君。名前は?」


営業モードの声と笑顔で、俺の肩を処置し始めた、ボブの女に声をかける。


「山田水希です。」

「水希ちゃんね。申し訳ないんだけど、俺たちを街の外まで案内してくれないかな?ドラッグも2人ともやってないから化け物になる心配もないし」

「ええ、いいですよ。」


思いの外、快く快諾してくれた。


「ありがとう、助かるよ。お礼はまた日を改めてするからさ。」


ニコッと商売道具の笑顔で伝えると、彼女は「お礼…」と小さい声で呟き、急に考える表情で押し黙ってしまった。


「…どうしたの?」

「ごめんなさい、お礼、街を出る前に頂いてもいいですか?」

「別にいいけど、今手持ちがないからATMが生きてるなら出せる分だけ……」

「いえ!お金じゃないんです!」


ばっと、顔を上げて俺の目をじっと見つめる。


「人を探してて、一緒に探してくれないかなと。危ないのは重々承知なので、少しの時間だけでいいので。」

「人探し?」

「はい…」


正直、街を歩き回るリスクを侵したくない。気弱そうな感じなので丸めこめそうではあるが治療もしてもらった上で断るのも気が引ける。し、人数が増えて盾が増えるのは好都合ではあるし、さっき言ってた詩音が言ってたような吊り橋効果で、こいつが俺の客になってくれれば。という邪推もある。


「俺はいいけど、詩音が危険な目に遭うのはな。」


顔を、彼女の方に向ける。


「別に、私は平気。」


いつもと変わらぬ声と平坦な声で答えてきた。


「ただ、むやみやたらに探し回るのはリスクが大きすぎる。付き合うのは1箇所だけ。その人が行きそうな場所とか、いそうなところ絞って。」

「わかりました。危険なのにありがとうございます……!


水希は深く頭を下げた。肩の処置を終えた彼女は、「もう少し、武器になりそうな物探してきますね!」と店内を彷徨き始めた。別のフロアに行ったのを確認したあと、傍の詩音に声をかけた。


「悪い、付き合わせて」

「別に平気。あなたの安全は私が保証する」

「ありがとう、頼りにしてるよ。」


手を伸ばし、彼女を引き寄せて抱きしめた。「えっ」驚く声と赤くなった頬。耳に口元を近づけて、囁くように言う。


「もう一つ、お願い聞いてくれないかな。」

「えっ……あの…」

「街で俺よりナンバー上のやつ見つけたら、全員殺してくれない?」


目的のためにこの状況を使うのは、手段を選ばないのは、俺だって一緒。


「ずっと思ってたんだよね、俺より上のやつが消えれば、必然的にナンバーワンだって。この状況で死んだって、全部化け物のせいになる。」


今度は額をくっつけて、目を合わせて言った。


「ねぇ、俺のためになんでもしてくれる?」


彼女は、目を合わせてはっきりとした言葉で返した。


「うん、なんでもする。貴方の邪魔になるもの、全部殺してあげる。」

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