片想い

 私は恋をした。

 その時の私は、私も一人の人間だったんだなと感慨深く思った。そう思うと無性にうれしさがこみあげてきた。

 私にとって恋というものは初めてではない。私は比較的に目移りが激しい方だ。なので、よく好きな人がコロコロ替わる

 私の恋が実ったことなんて一度もない。告白はするも連戦連敗だ。


 何でかなぁ?


 私は、いつかこの私を本当に愛してくれる人が来てくれると信じて待っている。



「レイ、またフラれたの?」

「うん」

 レイというのが私の名前だ。彼女の名前はユユコ。私の恋をいつも応援してくれる優しき友である。またフラれて気を沈ませて教室の机で突っ伏して眠る私に声をかけてきてくれた。

「まあ、いつかレイが望む待ち人がくるって」

 私の肩を優しく叩く。

「いつかっていつよ?」

 左側のほっぺたが冷たかった。私は摩擦で温めようと机に頬を何度もこすりつけた。

「レイは大人しいし可愛いのにね?」

「ユユコ、ありがとう」

 自分のことを褒められて、頬が自然に緩んだ。

「ねえ、ユユコ。どうして私の恋は実らないと思う?」

 率直に疑問をぶつけた。

 恋に壁なんて関係ない! 私は強くそう思っているのに。しかし一向にその壁が薄くならない。

「……さあ?」

 ユユコは肩をすくめた。

 私は深いため息をついた。

 本当ならユユコは知っているだろうに。



 私は恋をした。


 そのお相手は、1つ上の先輩で、弓道部に所属している。毅然とした構えで矢を射る姿にメロメロだった。

 私は偶然を装い近づき、話しかける。先輩は誰とでも気軽に話せる人だが、私に対しては何か厚い壁を作っているように見えた。もしかして、私について知っているのだろうか。

 ある日、私は思い切って告白してみた。時期尚早かそうでないのか分からないが、結果は普段と変わらなかった。やはり、私みたいのなんかじゃダメなんだな……。ますます悲しくなった。胸がキシキシと痛んだ。



 どうして私はこうなってしまったんだろう。ただ普通に生まれたはずなのに。

 洗面台の前に立つ。鏡で私の顔を覗いてみる。別段、不細工というわけではない。いわゆる普通。

 何でだろう?



 私は恋をした。


 もう何度目だろう。指で数えきれないぐらいだ。私はまた性懲りもなく恋をしてしまった。

 アプローチはしっかりやった。相手のことを調べて、少しでも私の評価が上がるように尽くした。

「好きです」

 私は相手に自分の気持ちを素直にぶつけた。

 今度こそは……と切願する。神にまで祈った。

「えっと……」

 相手は返答に困っていた。

「あの噂って、本当だったんだね」

 引きつった笑みを浮かべていた。

「何がですか?」

 私は相手の意図が分からずついつい尋ねた。

「君がレズだって話」

「……」

「ごめん。そういう趣味じゃないから」

 私の高揚した気持ちは一気に沈み、痛みに変わった。

「正直言って、気持ちが悪いわよ。みんな言ってるわよ。あなたの事「気持ち悪い」って。それじゃあね」

 そう言って彼女は去って行った。


 私はまたフラれてしまった。

 私の何が……いけないんだろう……。

 私はただ、普通に恋をしているだけなのに……。

 私が恋をすることはいけないことなの……?

 誰か教えてください。 



「レイ、またフラれたの?」

 もう何回目のやり取りだろう。

「うん……」

 私の声は擦れていた。瞼から流れ出ようとする涙を必死にこらえる。

「大丈夫だよ。いつか、いつかきっと、レイの事を愛して、幸せにしてくれる人が現れるよ。それまで待ってて」

「……うん」

「恋に差別なんかないんだから」

「ありがとう」


 私は何度も傷ついても、苦しくても、辛くても、また……性懲りもなく何度も恋をするだろう。

 例え結果が見えていたとしても巡り巡って恋を見つけようとするだろう。

 そして、いつか。そんな壁の隔たりを壊して、私に手を差し伸べてくれる人が現れるだろう。私は信じている。

 私は、いつまでも待ってる。


 いつか、こんな私を愛してくれる人に会えるまで。ずっと……。 


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