第25話 文化祭準備 その1

 本格的に文化祭準備期間に入った。

 一体うちのクラスの白雪姫はどんな内容で結末も不明という、まさに1から作り上げる形だ。

 俺は結局裏方に回った。

 当日含めて準備期間からビデオカメラを回していく。

 つまり、撮影担当だ。

 私情はないものの、モヤモヤは止まらない。

 モヤモヤの原因は分かっている。

 だが、何故モヤモヤしているのかが、自分でも分からないでいた。

 誰にも言えない。知られたくない。

 そっとしとこう、忘れよう。

 俺は下手なりのビデオカメラマン担当。

 役者の練習の様子、大道具小道具組、衣装組、音響やら照明と、みんなをすみずみまで撮影して残す。

 高3の卒業シーズン辺りか、大人になった後にみんなで集まって鑑賞するんだとさ。

 青春の1ページ以上を責任を持って残さなければならない。

 手が震えそうになるが、頑張るしかない。

 スタンドあるし大丈夫だろう。

 マイクも使うし、助手はというと。


「休憩したいからスタンド使おうぜー」

「始まったばっかだっつーの」


 相方の竜二りゅうじだ。安心する。

 竜二の我が儘を無視して、俺はレンズを覗きピントを合わせる。

 役者組を撮影する。

 台本は大方出来ているらしい。

 一応あるがまだ読んではいない。

 楽しみはとっとこうかと思うこと半分と、ラスト辺りを読みたくない半分で、俺の中で複雑になっていた。


「始めようかー」


 学級委員長の斉藤さいとう和奏わかなが声を発した。

 彼女が監督演出担当だ。


「位置についてー」


 いよいよだ、緊張感が漂う。

 奥の方でカリカリとシャーペンを走らせている人物がいた。

 回しているし撮ってみよう。

 ピントを合わせて、ズームして。


「最後が…うーん…」


 頭をかいて悩んでいた。

 坂城さかき也都やと

 彼が脚本担当だ。

 こっそり小説を書いているらしい。

 だから力をつける意味で書きたいと申し出た。

 体格はひょろっとしていて、髪はボサボサ。

 何を考えているのか分からない。

 一見、陰キャでオタクのような見た目の彼。

 実際はというと真逆。


「也都、あとちょっとじゃん!」

「そのちょっとが悩んでんのさ」

「坂城君、本当に面白いから頑張れ」

「ありがとう」

「今日帰りにゲームセンター行こう」

「気晴らしに良いね」


 数人の男女が彼を囲む。

 社交的で友達は多い。

 俺とは全く違う。良いな。


「じゃあ最初ねー、小人よろしくー」


 演技の練習が始まった。



「あの美しい姫は誰だ?」


 眼鏡をかけている1人目の小人。


「あれは白雪姫という姫ではないか」


 髪がボサッとしている2人目の小人。


「可愛いね〜」


 気だるげに言う3人目の小人。


「見惚れちゃうよ」


 白雪姫を見てうっとりしている4人目の小人。


「話しかけてみようよ?」


 ちょっとチャラそうな5人目の小人。


「勇気が出ないなぁ…あっ!」


 気弱な6人目の小人。


「白雪姫ー!」


 猪突猛進な7人目の小人。


「「「おーい待てよ−!!!」」」


 小人達は仲間の小人を追う。

 小人達は白雪姫に初めて出会い会話をする。

 物語を読んだことはないが、出だしは良いんじゃないかな。

 白雪姫役の雨宮あまみやさんが現れる。


「あなた達は?」

「僕らは小人さ」

「7人の小人だよ〜」

「まあ可愛らしい!」


 打ち解けた8人。

 ここから始まる。


「はーい、良い感じなんで次に進もー」


 斉藤の声で次の場面に進む。

 その間は小休憩。

 レンズ越しに見た雨宮さんはどことなく可愛く見えた。

 何かのマジックだろうか。

 ちょっとだけ聞こえてきた彼女の心。


“『カメラ越しに見られてる…恥ずかしいー!!』”


 そんなことを顔に出ないのだから役に入っているのかな。

 さて次の場面は魔女の登場だ。

 あの有名な台詞を言うのだろうか。

 久尾くおさんが演じる魔女と思うと迫力ありそうだなと思った。


 これから仕上がる演劇。

 俺の心がどう変化していくのだろうか。

 楽しみ半分、恐怖半分。

 とりあえず、肩の力は脱いとこう。

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