第24話 知らない気持ち

 学級会が終わってからも、ずっとモヤモヤしていた。

 機嫌が悪いのかと竜二りゅうじに指摘されてしまった。

 こんな気持ち、経験はない。

 授業に集中出来ないくらいに、心の中で蜷局を巻くように大きな渦が出来ていた。


「おい、顔色悪そうだぞ?」


 休み時間に竜二は俺にそう言った。


「いや、別に大したことは…」

「行くぞ」

「は?」


 無理矢理、竜二は俺の腕を掴んでどこかへ連れて行った。



「熱があるねー」

「マジかよ」


 連れて行かれた場所は保健室。

 目の前には珍しいかな、男性の養護教諭である。

 名前は相楽さがら一朗いちろう先生。


「ここで休んで良いけど、帰ることもオススメだね」


 柔らかい口調でニコニコしている相楽先生。

 高身長でスラっとしていて甘いマスクだから、女子生徒に人気。


「文化祭近いからね、大事を取るって意味で帰宅するのもあり」


 なるほど。

 テストは大丈夫だったし、欠席はあの風邪引いた時だけだし、休んでも傷つかないか。


「帰ります」

「分かった、担任に伝えてから帰ってね」

「はい」


 竜二は“『帰んのかよ、午後体育でペアになるやつだったのに』”とふてくされた声だった。

 すまんな、体調を考慮しての判断だからな。

 それにモヤモヤしているから、今日は学校には居たくない。


「「失礼しました」」

「お大事にー」


 相楽先生は笑顔で手を振った。

 心の中はというと。


“『何かあったはず、ストレスかもな』”


 この養護教諭、鋭いと思いビビる。

 そんなことは露知らずの竜二は気楽で良いなと羨ましくなった。



 帰宅すると宙未ひろみはいなかった。

 そりゃそうだ、まだ学校だよな。

 俺はもう一度体温計で体温を計った。

 ピロピロ。最近の体温計は早く分かるから便利だ。


「平熱かよ」


 学校から離れて少し気楽になったからだろう。

 ストレスか。参ったな。

 ベッドに仰向けで寝る。

 何故あんな気持ちになったんだ。

 良いじゃないか。王子役が立間たつまで。

 ああいう役はモテ男がやるものだ。

 彼女をイヤイヤしているのに、ちょっと待て何でだよなんて…。


 有り得ない。


 自分の我が儘に対して情けなくなる。


「くそ…」


 仰向けに寝ていたが、うつ伏せに体勢を直し、どうしようもない怒りを、拳に託して枕にぶつけた。



雨宮あまみや優希子ゆきこ sid


「あれ?」

「どした?」


 想良そらの声を無視する。

 いない…、宙弥ひろや君がいない。

 どうしたんだろう。

 私は直ぐに茅野かやの君の所へ行った。

 隣にはこの前いた金髪の女の子がいた。

 確かこの子はハーフだった気がする。

 とても可愛いから羨ましい。


「茅野君」

「あっ、雨宮」

「ほよ?」


 茅野君は驚いた顔をしていて、隣の女の子はキョトンとしていた。


「篠宮君いないけど」

「それがさー」


 彼は熱を出して帰ったと茅野君は話した。

 心配だな。大丈夫かな。

 あとで宙未ちゃんに聞いてみよう。


「なになに?ちゅう君早退したの?」


 “ちゅう君”…?

 何だ、その親しみを感じる呼び方は。

 モヤッ…。頑張れ私、抑えて抑えて。

 宙未ちゃんの時みたいなパターンかもしれないから。

 落ち着こう落ち着こう、おまじないを唱えるように心の中で自分に言い聞かせる。


灯夏ともか、宙弥は豆腐メンタルらしい」

「えーウケる!」


 ケラケラ笑った女の子。

 なんだか品を感じるのは何故だろう。


「ねえねえ?名前は?」

「えっ」


 女の子は私に話しかけてきた。

 キラキラしたその目は澄んでいる。

 とても綺麗な青の瞳。吸い込まれそう。


「私は本田ほんだマリアーノ灯夏!」

「あっ、えと」


 言葉に詰まる。グイグイ系なんだと理解。


「私は、雨宮…優希子、です」

「ほほーん、ユッキーね!」


 あら?

 トントン拍子で友達確定判子を捺されたような気がする。


「ごめんな、が」


 茅野君は申し訳ないという表情だったが、それはさておき、違うことで驚く。


「か、彼女?」


 茅野君は満面の笑顔で「そうなんだよ!」と言った。


「竜二は私と付き合ってるの!」


 2人は目を合わせて「「ねー!!」」と言った。

 良かった…また勘違いするとこだった。


「ユッキー、もっと話そう!」

「ゆき」


 想良がやって来た。


「ユッキーの親友?」

「うん」


 すると本田さんは想良の方へ。

 そして想良の手を握りこう言った。


「初めまして!本田マリアーノ灯夏!よろしく!」

「は?」


 想良の目が点になっていた。

 しばらく話していくと、自然と打ち解けていった。


「俺、ないがしろ」

「ごめん竜二ー」

「ごめんなさい茅野君」

「悪かった」


 友達が1人増えて嬉しい反面、宙弥君の事が心配な気持ちは消えることはなかった。

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