第23話 近付くイベント

 俺のクラスの出し物は演劇。

 演目は白雪姫。

 だが、らしい。

 少々改編してお披露目するようだ。


「役者、やりたい人いない?」


 学級委員長の斉藤さいとう和奏わかなが仕切る。

 ザッ委員長な見た目で、眼鏡が物語る。

 平均的な身長、ショートボブ、小顔なので女子に羨ましがられているらしい。

 話を戻すが、役者に手を挙げる者はいない。

 大道具小道具、衣装、演出、脚本までは決まったが。

 やりたがらないよな、目立ちたくはないよな。

 ステージで演技をするのだから。

 大勢の前で。

 台詞が飛ぶ恐怖や緊張感などに負けないようにしないといけない。

 大変なんだな。

 なんて呑気な気持ちで学級会を見守る。

 関与していない、空気のように。

 しばらくすると「はい!」と言って挙手をした人が現れた。

 その人を見ると、俺はとても驚いた。


雨宮あまみやさん、良いの?」

「うん、白雪姫、やりたい」


 クラスの雰囲気が、お葬式から歓喜に包まれ、自然発生的に拍手が起こった。

 これを機に小人に挙手をする者、木や葉っぱといった台詞のない脇役に挙手をする者が出てきた。

 残りは魔女と王子のみ。

 すると「私、やる」とイケボが響く。


「えっ、目立つの嫌じゃないの!?」


 雨宮さんは驚いて声を大きくして、その人に向かって言った。

 魔女役に立候補したのは、久尾くお想良そらだ。

 久尾は表情変えずにキリッとした目であるが優しくこう言った。


「ゆきがいるから出来る」


 シンプルな返答に雨宮さんは「頑張ろうね!」と言った。


「じゃあ魔女役は久尾さんね」


 拍手がわいた。


「残りは王子かぁ…」


 頭を抱える委員長。

 下を向く人や、委員長の視線と黒板を見ずに他の方に視線を送る人など。

 俺は窓の外を見ていた。目が合えば最後。


“『篠宮しのみや君…王子役に立候補しないかな…』”


 ごめん、立候補しないから。

 委員長とも、雨宮さんとも、目を合わすまい。

 合わさなければ逃げ切れる自信しかない。


“『もし篠宮君が王子役になったら、私、死んでもいい!』”


 興奮しながら言わないでくれ!

 溜め息をつきそうになっていると「篠宮」と久尾さんが呼んだ。


「えっ?」


 間抜けな声で反応を示してしまった。


“『ゆきの為に、やると言わせる…』”


 心の声でも気迫があってビビる。

 マジかよ。嫌なんだが。

 だって白雪姫の王子って、ラストに姫に…。

 振りとはいえ、顔を近付けるとか、真っ平ごめんだ。

 雨宮さんに…それは出来ん。

 小人の方がまだマシだ。

 頭の中でぐるぐると考えていると「待て」と、男子の声が響き渡った。

 声の主は起立していた。


「やるよ」


 それは立間たつま寿史ひさしだった。


 モヤッ…。


 不思議と湧いた。

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