第22話 あの時、実は…
テスト期間はあっという間に終わり、文化祭に向けての空気感になりつつあった。
テストの結果、
「
「あー、はいはい」
竜二は俺に抱き着いて涙を流している。
「ありがとう、本当にありがどうううう!!」
「はいはい」
赤点回避できたとさ。良かったな、竜二。
「竜二おめでとう!」
「うん、
「はい、なでなで」
隣にいた
「私とちゅう君がいれば無敵よ!」
「その通りだよ!」
「ふふん!」
本田がドヤ顔で私は凄いぞアピールをしているので、そこは目を瞑る。
“『竜二と勉強、めっちゃ楽しかったなぁ♪』”
良かったな竜二、幸せそうだぞお前の彼女。
微笑ましくバカップルを見ていると、「
振り向くと。
「
「この前はありがとう」
実は、こんなことがあった。
※
図書室で勉強すること3日目。
個室で黙々とシャーペンを走らせる。
集中すること2時間。
「はぁ…」
一息つくか。
休憩しようとすると、スマホが震えた。
見てみると雨宮さんからメッセージが届いていた。
『篠宮君、今どこ?』
…ストーカーかよ。
嘘はよくない、図書室にいると正直に答えた。
秒で返事がきた。
『なら、待ってて』
ウサギが親指たてているスタンプと共に。
マジかよおおおおお!!!
まっ、個室のことは言っていないからなんとかなっ…。
ガチャッとドアノブが開く音が聞こえた。
入って来たのは。
「居たー!」
何故直ぐ見つかるんだよおおおおお!!!
頭を抱える。
「早いって思った?」
「まあな」
「ずっと図書室にいたからね」
「えっ」
放課後ずっと?
なるほど、俺より先に居たわけか。
「気付かなかったから図書室に居るって聞いてびっくりしたよ」
“『どこにもいなかったし、来たことも気付かなかったから個室と推理したんだよね』”
名探偵かよ、怖ッ。
「まあ、座りなよ」
「お邪魔します」
向かいに座るかと思いきや隣に座った。
「えっと?」
「隣がいい」
満面の笑顔に負けた。
我慢するしかない。
静かに勉強をしていると、雨宮さんは「ここ分からなくて」と聞いてきた。
俺は「ここはさ」と教えた。
「教えるの上手いね」
「普通だよ」
“『幸せだな〜、楽しい♪』”
雨宮さん的にはそうだろう。
俺からしたら疲れはしない分、何とも言えない感情がある。
好意を受け止められない罪悪感というか、申し訳無さ。
応えたくないという拒否ではなく、応えられない自信がないから応えないだけで。
それでも、彼女はあの手この手で振り向かせにきている。
好意を持たれるきっかけって一体…。
そんなことを頭で考えないように追い払う。
しばらくちょっとした会話をして、また静かに集中して、また聞かれたから教えてを繰り返す。
「あっ…」
気が付くと17時を回っていた。
「遅くなったね、帰ろう」
「うん、送ってく」
こんな真っ暗、女の子1人には危険すぎる。
「良いの?」
遠慮しない所は雨宮さんだな。
笑いそうになるのを堪える。
「良いよ、危ないから」
“『キュン…紳士…』”
もう少し言葉を選べば良かったと後悔する。
一緒に校舎を出て歩いて帰る。
「篠宮君」
「何?」
彼女のペースに合わせて歩く。
いつもはスタスタ歩くから、ゆっくりに感じる。
こんなにも歩幅と歩くペースは違うのかと知る。
「テスト上手くいきそう?」
俺より背は低いから、自然と雨宮さんは俺を見上げる形になる。つまり、上目遣いだ。
うん、可愛らしい、なんて思ってしまうのは事実。
でも落ちないのがこの俺の性格の悪さからくるのかも。
変なことを考えずに会話に集中する。
「いつも通りの点数か、あわよくばそれ以上の点数を目指して勉強しているから、まあまあかな」
変に上げることなく、いつも通りが1番。
内申点は考えていないわけではないが、それでも自分の平均値は必ず到達したいもの。
勉強をしていれば落ちることはない。
「篠宮君、頭良いからなぁ~」
「俺より凄い奴いるでしょ」
「でも、肩を並べているじゃない」
「並んでないし、足元にも及ばないよ」
そう、俺よりも凄い奴はいる。
張り合う必要はない。
穏便に、平和に。
「雨宮さんは中間より上?」
「そうだね、中の上だよ」
そこそこが羨ましい。
俺なんか…。
「篠宮君は上でしょ?」
「ううん、その中の真ん中辺り」
「良いなー」
「いやいや」
中途半端過ぎて、教育に熱心な母親はチクチク言ってくる。
トップを狙えとは言わないが、中途半端が気に食わないから、ハッキリしてほしいそうだ。
そんなことを言われてもな。
それを
腹が立ったが我慢して抑えた。
「大変だよ、親が成績に文句言ってくるからさ」
「厳しいんだ」
「厳しいというより、ネチネチしている感じ?」
ネチネチしていても、節度ある親なのが安心材料である。
「何それ」
ふふっと雨宮さんは笑った。
いろんなことを話していくと、雨宮さん家に到着した。
初めてだ、平屋建てのわりと新しい感じの家。
「じゃあな」
「うん、またね」
“『ずっと隣に居れて良かった♪前進前進!』”
前進はしていないけどな。
雨宮さんは笑顔で手を振ってから中へ入って行った。
送るミッションをやり遂げだということで、俺もゆっくり歩いて帰宅した。
※
「またよろしくね」
「ああ」
雨宮さんと竜二に教えたからか、点数は上がったから感謝しかない。
“またよろしくね”か…。
まあ、良いかなと思った。
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