第22話 あの時、実は…

 テスト期間はあっという間に終わり、文化祭に向けての空気感になりつつあった。

 テストの結果、竜二りゅうじはというと。


宙弥ひろや、ひろやああ〜!」

「あー、はいはい」


 竜二は俺に抱き着いて涙を流している。


「ありがとう、本当にありがどうううう!!」

「はいはい」


 赤点回避できたとさ。良かったな、竜二。


「竜二おめでとう!」

「うん、灯夏ともかもありがどううう!」

「はい、なでなで」


 隣にいた本田ほんだは彼氏の頭を撫でた。


「私とちゅう君がいれば無敵よ!」

「その通りだよ!」

「ふふん!」


 本田がドヤ顔で私は凄いぞアピールをしているので、そこは目を瞑る。


“『竜二と勉強、めっちゃ楽しかったなぁ♪』”


 良かったな竜二、幸せそうだぞお前の彼女。

 微笑ましくバカップルを見ていると、「篠宮しのみや君!」と呼ばれた。

 振り向くと。


雨宮あまみやさん」

「この前はありがとう」


 実は、こんなことがあった。



 図書室で勉強すること3日目。

 個室で黙々とシャーペンを走らせる。

 集中すること2時間。


「はぁ…」


 一息つくか。

 休憩しようとすると、スマホが震えた。

 見てみると雨宮さんからメッセージが届いていた。


『篠宮君、今どこ?』


 …ストーカーかよ。

 嘘はよくない、図書室にいると正直に答えた。

 秒で返事がきた。


『なら、待ってて』


 ウサギが親指たてているスタンプと共に。

 マジかよおおおおお!!!

 まっ、個室のことは言っていないからなんとかなっ…。

 ガチャッとドアノブが開く音が聞こえた。

 入って来たのは。


「居たー!」


 何故直ぐ見つかるんだよおおおおお!!!

 頭を抱える。


「早いって思った?」

「まあな」

「ずっと図書室にいたからね」

「えっ」


 放課後ずっと?

 なるほど、俺より先に居たわけか。


「気付かなかったから図書室に居るって聞いてびっくりしたよ」


“『どこにもいなかったし、来たことも気付かなかったから個室と推理したんだよね』”


 名探偵かよ、怖ッ。


「まあ、座りなよ」

「お邪魔します」


 向かいに座るかと思いきや隣に座った。


「えっと?」

「隣がいい」


 満面の笑顔に負けた。

 我慢するしかない。

 静かに勉強をしていると、雨宮さんは「ここ分からなくて」と聞いてきた。

 俺は「ここはさ」と教えた。


「教えるの上手いね」

「普通だよ」


“『幸せだな〜、楽しい♪』”


 雨宮さん的にはそうだろう。

 俺からしたら疲れはしない分、何とも言えない感情がある。

 好意を受け止められない罪悪感というか、申し訳無さ。

 応えたくないという拒否ではなく、応えられない自信がないから応えないだけで。

 それでも、彼女はあの手この手で振り向かせにきている。

 好意を持たれるきっかけって一体…。

 そんなことを頭で考えないように追い払う。

 しばらくちょっとした会話をして、また静かに集中して、また聞かれたから教えてを繰り返す。


「あっ…」


 気が付くと17時を回っていた。


「遅くなったね、帰ろう」

「うん、送ってく」


 こんな真っ暗、女の子1人には危険すぎる。


「良いの?」


 遠慮しない所は雨宮さんだな。

 笑いそうになるのを堪える。


「良いよ、危ないから」


“『キュン…紳士…』”


 もう少し言葉を選べば良かったと後悔する。



 一緒に校舎を出て歩いて帰る。


「篠宮君」

「何?」


 彼女のペースに合わせて歩く。

 いつもはスタスタ歩くから、ゆっくりに感じる。

 こんなにも歩幅と歩くペースは違うのかと知る。


「テスト上手くいきそう?」


 俺より背は低いから、自然と雨宮さんは俺を見上げる形になる。つまり、上目遣いだ。

 うん、可愛らしい、なんて思ってしまうのは事実。

 でも落ちないのがこの俺の性格の悪さからくるのかも。

 変なことを考えずに会話に集中する。


「いつも通りの点数か、あわよくばそれ以上の点数を目指して勉強しているから、まあまあかな」


 変に上げることなく、いつも通りが1番。

 内申点は考えていないわけではないが、それでも自分の平均値は必ず到達したいもの。

 勉強をしていれば落ちることはない。


「篠宮君、頭良いからなぁ~」

「俺より凄い奴いるでしょ」

「でも、肩を並べているじゃない」

「並んでないし、足元にも及ばないよ」


 そう、俺よりも凄い奴はいる。

 張り合う必要はない。

 穏便に、平和に。


「雨宮さんは中間より上?」

「そうだね、中の上だよ」


 そこそこが羨ましい。

 俺なんか…。


「篠宮君は上でしょ?」

「ううん、その中の真ん中辺り」

「良いなー」

「いやいや」


 中途半端過ぎて、教育に熱心な母親はチクチク言ってくる。

 トップを狙えとは言わないが、中途半端が気に食わないから、ハッキリしてほしいそうだ。

 そんなことを言われてもな。

 それを宙未ひろみに話したら、姉は「ドンマイ!」と言って豪快に笑った。

 腹が立ったが我慢して抑えた。


「大変だよ、親が成績に文句言ってくるからさ」

「厳しいんだ」

「厳しいというより、ネチネチしている感じ?」


 ネチネチしていても、節度ある親なのが安心材料である。


「何それ」


 ふふっと雨宮さんは笑った。

 いろんなことを話していくと、雨宮さん家に到着した。

 初めてだ、平屋建てのわりと新しい感じの家。


「じゃあな」

「うん、またね」


“『ずっと隣に居れて良かった♪前進前進!』”


 前進はしていないけどな。

 雨宮さんは笑顔で手を振ってから中へ入って行った。

 送るミッションをやり遂げだということで、俺もゆっくり歩いて帰宅した。



「またよろしくね」

「ああ」


 雨宮さんと竜二に教えたからか、点数は上がったから感謝しかない。

 “またよろしくね”か…。

 まあ、良いかなと思った。

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