息抜き その1

「たっだいまー!」

「おかえり」


 帰宅すると弟の顔色は良くなっていた。

 リビングにいてソファに寛ぎながら、読書をしている。

 なんか分厚い…難しそう。


「早かったな」


 本を閉じ、私の方を見て弟は言った。


「心配しているから」


 “は”をわざと強調してみる。


「“は”って何だよ」


 やはり気づいたか。

 鼻につくよね、ごめんなさい。


「細かいところは気にしない」


 ボヤキをスルーして、喉が渇いたから冷蔵庫に向かう。


「明日は行けそうだね」

「おかげさまで」


 冷蔵庫から作り置きしていた麦茶を出し、コップに注ぐ。

 満タンギリギリまで注いで、麦茶は冷蔵庫に閉まった。

 テーブルに置いた状態でそっとある程度飲んで量を減らしてから、右手でコップを持って、左手を腰に当てながらぐびぐび飲んだ。


「ぷはぁ!」


 一気に飲むのは気分が良い。

 ゴトッとテーブルに空になったコップを置いた。


「おやじかよ」


 すかさずツッコむ弟。


「ナイスツッコみ」

「うるせえ」


 話していると、掛け合いが面白くて心地良い。

 どこか変わっている弟の宙弥ひろや

 根暗というか、気難しいというか、ビビりというか。

 そして、正確に相手の気持ちを理解している所は才能だと思う。

 何度も友達の仲裁に入って解決して、泣いていたら寄り添って…。

 仙人かよ、と思っていたこともあった。

 高校に入ってから初めて女の子が家に来たのには驚いた。

 可愛らしい雨宮あまみや 優希子ゆきこちゃん。

 あんな子が宙弥にはちょうどいいのかも。

 竜二りゅうじ君とその彼女のともちゃんもいるし、他校に通う姉は安心だ。


 たくさん友達を作れとは言わない。

 年をとっても仲良くしてくれる、かけがえのない人に出会って欲しい。

 友達であれ、恋人であれ。

 姉はそう願う。

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