第18話 気遣い少女

 坂上さかのうえ先輩と葉柴はしば先輩はまだ図書室に居るとのことで、俺と葛原くずわらさんは帰ることにした。

 廊下を2人並んで歩いているが、なかなか話題は浮かばずソワソワしていると「あの!」と葛原さんから口を開いた。


「わがままな葉柴先輩を許して下さい」

「えっ?」


 開口一番の言葉が許してくれとは、目が点になるとはこのことか。

 俺は肩を竦める。


「まあ、わがままっちゃーわがままだよな」


 チクリとしたのか、葛原さんは俯く。


「でも、葛原さんが許しを請うことはないんじゃないか?」

「それは、どういう?」

「葉柴先輩が言うことじゃないのかってこと」


 全てのことは葉柴先輩の独断から来ているのだから、葛原さんはそれに従っているだけ。

 だから、本来なら葉柴先輩が俺に言うのが筋なのだ。

 期待はしていないが、とりあえず手伝いの頼みを、図書の古本市場の場所を目立つ所に移動出来たことでお返しをしているから、何にも言えない。


「手伝うから、お返しに図書委員の有益になる交渉を成立にもっていったんだから、それでいいよ」

「でも…」


 まだ何かあるのか、ないだろうに。

 そう思っていると伝わってきた。


“『もし有益じゃなかったら…私が動くしかない…!』”


 なるほど、当日のマイナスなことを考えていたのか。

 その時はその時だと思うがな。

 心配性なんだろう。

 こんな良い子を振り回す委員長はダメだな。


「なんかあれば、協力して貰っても?」

「えっ…と…」


 心を読まれた?みたいな顔をしている葛原さん。

 本当に読んだからなー、なんて。

 数秒オロオロしてはいたが、落ち着きを取り戻すと、彼女の目に力が宿っていた。


「はい、もちろんです!」

「ありがとう」


 まだまだ彼女の心は読めそうにはないが、ちょっとだけ分かりあえたような感じはした。



葛原 美穂みほ sid


 初めて彼に声をかけた時はとてもドキドキした。

 男の人に話しかけるなんて、これほどの恐怖はない。

 ドキドキして震えていた。

 でも、いざ会話をしていくと、恐怖はなくなっていた。

 慣れはある。信頼もちょっとはしている。

 ファミレスの時は女の子に囲まれていて戸惑ってしまったけど、どこかでこう思っていた。


 


 


 隙間はないとは、彼の中に私という存在はないだろうということ。

 でも、さっき会話をしてみて、優しい人だなと思った。

 私の中で、が出たような気がした。

 初めてのことだから本物かどうかは、この先に分かるはず。

 もし本物だったら…。

 また心配事が増えてしまった。

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