第17話 約束は守ろう

 図書室に向かうと坂上さかのうえ先輩と葉柴はしば先輩と葛原くずわらさんがいた。


「意外と早く来たね!」

「早く行かないとダメかなと」

「分かってるじゃん」


 葉柴先輩はわっはっはーと豪快に笑った。


「さっさと座りなさい」

「失礼します」


 坂上先輩の隣に座る。

 対面に葉柴先輩という強烈な方がいるからか、怖気づきそうになる。

 その隣の葛原さんは苦笑していた。


「呼んだのは理由があって」

「はい」


 切り出した葉柴先輩は鼻をフンと鳴らす。


孝也たかや君がお願いを聞いてくれたわ」


 孝也君とは生徒会長の秋山あきやま先輩だ。


「正式に図書の古本市場の場所は今年はど真ん中になったって!」

「へぇー、ありがたーい」


 坂上先輩はニコニコしながらも棒読みで返す。


“『だから、篠宮君を貸せと?納得いかない』”


 まだ納得してなかったのかよ。

 これは荒れる展開かな。

 不安な気持ちでダブル委員長の会話を見守る。


「てなわけで、お願い、篠宮君をお借りしてもいいかな?」


 おねだりするように、両手を合わせて小首を傾げてアピールする葉柴先輩。

 それをニコニコしながら黙って見ている坂上先輩。

 ピンと空気は張り詰めた。

 緊張してきた。

 葛原さんもおどおどしている。

 数秒後、息を吸ってから坂上先輩は言った。


「約束してほしいことがあるんだけど」

「え?何々?」


“『内容次第では飲み込んであげよう』”


 何故あなたは上から目線なんだよ。

 葉柴先輩は読めないな本当に。

 本心と建前の区別がつかない、参ったな。

 今は言葉通りに解釈はするが、早く読めるようにしないとな。


「優先順位として図書が上だからね」

「もちろん」


 前提として図書を優先。確かにな。

 当然の事だ。


「文化祭期間中は何があっても図書だから」

「…分かった」


 少しの間が気にはなったが納得してくれたようだ。


「というか、私と夕陽ゆうひは委員長だから文化祭に参加するとはいえ、放棄してもいいわけで。だから私は篠宮君に任せて当日はゴロゴロしようと思ったのに…」


 そうだったのか。

 先輩だって普通の人だよな。

 それを聞いた葉柴先輩は「私は当日参加する」と言った。


「勉強漬けとか嫌だから文化祭を口実にするのだ!」


 えっへん!と思い切り鼻をフンとならしてドヤ顔をした葉柴先輩。

 それを葛原さんは苦笑いして見守り、俺は呆れて、坂上先輩は若干キレそうになっていた。

 坂上先輩は自身を落ち着かせるべく深呼吸してからこう言った。


「彼を呼ぶ時は必ず私を通すこと」


 すると葉柴先輩はプンと怒ったがどこかで納得して、不満を滲ませつつも「はーい」と言って応じた。

 こうして俺の取扱い(?)の話し合いは終わった。


 俺はお姉様方の何でも屋ではないからな。

 1つ溜息をこっそりついたのだった。

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