第15話 気が付いたら囲まれた

“『偶然は運命と思っていたのに!』”


 雨宮あまみやさん、運命なんて感じないでよ。


“『何故巻き込まれてしまったのでしょう…』”


 葛原くずわらさんの心を初めて聞いたな。

 なんて呑気な事を言っている場合じゃない。

 すみません、雨宮さんが無理やり過ぎで。


“『初めての人ばかり…負けてられないな』”


 金澤かなさわさん、張り合うな。

 というか何故敵視してんの。


“『篠宮しのみや君、モテモテだったのかー、チッ…』”


 坂上さかのうえ先輩が舌打ちしてんの何でだよ。

 そして俺はモテ男ではない。


 遡ること1時間前である。



 昨日の坂上先輩のお願いというのは、ファミレスに付き合ってほしいとのことだった。

 そのファミレスに隅の方のテーブル席に、2人で向かい合って座っている。


「このぬいぐるみが欲しくてねー」


 お子様ランチについてくる、ウサギの手のひらサイズのぬいぐるみが欲しかったそうだ。

 前に来た時に「このウサギ、ダサくない?」と友達が言っていて、欲しくても注文が出来なかったのだ。

 だから俺に助けを求めて、現在である。

 確かに、1人でお子様ランチを頼むのは気が引ける。

 ましてやダサいと言った友達の前でも注文出来ない気持ちも分かる。

 好きなものを頼める環境がベストなのに、悲しい事もあるのだなと思った。


「お役に立てて光栄です」


 なんとなく反応が見たくて言ってみた。


「冗談言わないでー」


 坂上先輩はクスッと笑った。

 気兼ねなくいれるのはいいことだ。


「篠宮君も頼むでしょ?どうぞ」


 坂上先輩が見ていたメニュー表が表示されているタッチパネルを、今度は俺に向けて見せてくれた。

 特に食べたいものはないから、ドリンクバーとショートケーキを頼むことにした。

 タッチパネルで打ち込む。


「あとはないですよね?」

「うん」


 注文確定のボタンを押した。

 完了の文字が出てきた。


「飲み物持ってこよう」

「お先にどうぞ」

「ありがとうー」


 ドリンクバーに向かおうと席を立った先輩は、どこか楽しそうに思えた。


“『質問攻めしてみるかなー』”


 答えられる範囲内であれば正直に言います。

 躱したくなる質問はこないだろうし。

 軽やかに歩いている先輩の背中を見ていると「篠宮君」と聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り向くと驚いた。


「雨宮さんに…葛原さんまで…」


 この2人、知り合いなのかと思いつつ、何故ここに居るのか。


「まさか着いてきた感じ?」

「たまたまだよ!信じて!」

「ほ、本当です!」


 2人の目を見ても嘘を言っているようには見えない。


“『ファミレスで勉強と思っていたら篠宮君が居たから声をかけたけど、一緒にいるの先輩だよね』”


 なるほど、それで先輩が居なくなったから声をかけたわけだ。

 一方の葛原さんからは相変わらず何も反応はないが、ストーカーする勇気はないはずだ。

 そのうち理由を話すだろう。


「分かった、信じるよ」

「分かってくれてありがとう!」

「ありがとうございます!」


 すると雨宮さんは俺の隣に座り、立っていた葛原さんの腕を掴んで座らせた。

 3人並んで座れるソファとはいえ、何で一緒?


「おまたせーってありゃ?」


 戻って来た坂上先輩はキョトンとしている。


「坂上先輩、お邪魔します!」


 元気良く言う雨宮さん。


「失礼します…」


 申し訳なさそうに小さな声の葛原さん。


「どゆこと?」

「えーっとですね…」


 なんと言えば良いのやら。

 考えていると「篠宮君」とまた聞き覚えのある声が聞こえた。


「あの時以来だね」

「金澤さん」


 なんですかこの状況?


「何でここに?」

「友達と待ち合わせしていて、賑やかな声が聞こえたから見たら篠宮君を見つけて、それで声をかけたんだけど」


 なるほど、へぇー。


 こうして女子4人対男子1人というヤバい状況が出来上がってしまった。



 そして出だしに戻るのであった。

 全く知らない金澤さんが他の3人に自己紹介をして、金澤さんから雨宮さんに公園にいた人だよね?と聞いて、そうしたら何故か仲良くなるという。

 かしましい4人は意気投合したように、会話は弾み捲るのだった。


 女子に囲まれるなんて、こんなこと初めてだ。

 竜二りゅうじに見られたら最悪だ。


 はぁ…早く帰りたい…







 

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