第14話 俺のおかげではなくてですね

篠宮しのみや君ありがとうー」

「いやー…まぁ…」


 のんびり口調で俺にお礼を言ったのは、図書委員長の坂上さかのうえさくら先輩。

 三つ編みがトレードマークで、性格はなるようになるさ的な感じである。

 委員会の文化祭に向けての話し合いが終わり、今は図書室に俺と坂上先輩だけ。


「今年は少し売上が上がりそうな気がしてきたー」

“『準備と片付けで篠宮君が風紀に取られるのは痛手なんだけど、夕陽ゆうひは何考えてんのかな』”


 仰る通りです、委員長。

 表に出さないその怒りほど怖いものはない。

 女子とは本音と建前を上手く出来るから凄いなと思う。


「本当に手伝いに行くの?」

「…逃げ切るのは不可能かと」

「ふーん」


 頬杖をついて、ふてくされる坂上先輩。

 行かない方が良いんだよなー…。

 明らかに“嫉妬”している。

 顔に書いてある。本当は書いてないけど。


“『うちの後輩をなんだと思ってんの。意味わかんない』”


 中学の時から知っている先輩。

 同じ図書委員で出会ったのが始まりだ。

 高校でも同じ図書委員になっていた先輩に最初は驚きつつも、去年の後期から図書委員になってからは阿吽の呼吸なのか、当番の時は息ぴったりに、混雑時をよく乗り越えてきた。

 互いに恋愛感情はないものの、先輩の方は友情を抱いているのかもしれない。

 先輩と後輩にしか思っていないが、どこかで勝手に戦友と思っている。


「あとで夕陽にお礼を言わなきゃだなー」


 伸びをしながら坂上先輩は言った。

 あとからの呟きはというと。


“『文句ぶちかましてやる』”


 先輩に“ぶちかます”という言葉は似合いませんよ。

 さて帰ろうかな。

 椅子から立ち、鞄を持って一言。


「お先します」


 すると「待ってよ」と坂上先輩は俺を呼び止めた。


「明日の放課後空いてる?」


 首を傾げて言った坂上先輩。

 明日は特にないはず。


「特にないですけど?」


 先輩はカウンターを離れて俺に近づき対面となった。

 こうして対面するのは初めてかもしれない。

 スラッとしていて、凛としている印象を受けた。

 あの独特のぽやんとした感じはどこへやら。


「じゃあさ」


 その後のお願いを聞き入れると、たいそう喜んだ坂上先輩。

 聞き入れた理由は特にない。

 何にも考えずに了承したまで。

 お世話になっているし、良いかなくらいの軽さ。

 明日、どうなるのかも知らずにいる今の俺。

 明日の俺が今の俺に知らせに来てくれればと痛く思うことになろうとは、この時の俺はまだ知らない。

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