第13話 あれよあれよと進んでしまう

♪」


 陽気なことを言っている風紀委員長の葉柴はしば夕陽ゆうひ先輩。

 その後を付いていく俺と葛原くずわら美穂みほさん。

 先輩が向かった先はというと。


「着いた!」


 生徒会室、だと。

 初めて見た、あるんだな。

 なんていう冗談はさて置き。

 少し緊張してきた。


“『知らせてないから、居たら絶対喜んでくれるよね』”


 ここに先輩の大切な人がいるのか。

 なるほど…。俺は本当に捕獲されて下僕へまっしぐらになるのか。

 仕方がない、とりあえず話は聞こう、それからだ。

 先輩は「よし行きましょう!」と言ってノックをせずに勢いよくドアを開けた。


「たーのもうー!!」


 失礼しますじゃないのかよ!

 ドア近くにいた赤茶色の髪色でツインテールに結っている女子生徒が振り向いた。


「あっ、夕ちゃん!いらっしゃい」


 葉柴先輩に手を振っている。


「あつー!お願い聞いてよー!」


 甘えるような声でその女子に抱き着いた先輩。


「えー?何々?」


 2人はタメ口で会話をしているということは、この人は俺からしたら先輩ということか。


「あの人は?」

「あの方は書記の久富ひさとみ温子あつこ先輩です」


 また初めましてか。

 てか葛原さん、何でも知っているんだな。


「ところで、うちの人はどこ?」

「ん?ああ」


 思い出したように久富先輩は葉柴先輩に「そろそろ戻って来る頃だから待ってて」と言った。

 巡回か何かをしているのだろうか。


「あっ、ごめんごめん、居たんだね君達」

「ども」

「お疲れ様です」


 久富先輩はやっと俺達に気付いた。

 葉柴先輩がベタベタしているから気付かないのは当たり前。


“『今日はお客が多いなー』”


 ダラけた心を読み取るも、今日の生徒会は大変な1日のようだ。


「そこらへんに座っててね。夕ちゃんも」

「ありがとう!」

「「ありがとうございます」」


 パイプ椅子に座り暫くすると、ドアが開き人が入って来た。


「いやー、めんどかったわー」


 頭を抱えながら疲れた顔をしている男子生徒。

 その後に男子生徒2人が入って来た。


「お疲れ様」


 笑顔で迎える久富先輩。


孝也たかやくーん!」


 待ってましたと言わんばかりに右手を上げてアピールする葉柴先輩。


「おっ!?夕陽、いたのかよ!」


 先に入って来た男子生徒は葉柴先輩を見るや凄く驚いている。


「サプライズ大成功♪」

「ほんとだな」


 優しい眼差しを葉柴先輩に向けている。

 この人だ、こと、葉柴先輩の


「夕陽、この男子は?」

「ふぇ?」


 先程までの眼差しはどこへやら。

 俺に向けられる目は怖すぎだ。


“『夕陽に何かしたのか?』”


 全く違います、逆です、俺は被害者です!

 変な汗が流れる。動悸もする。

 貧乏揺すりをしたくなるところで、隣に居た葛原さんが助けてくれた。


秋山あきやま先輩、この方は篠宮君と言って、風紀委員のお仕事を期間限定でお手伝いしてくださるので、そのお返しを彼が所属する図書委員にするべく、生徒会に間に入って頂きたく、今日は参上した次第です」


 流暢に言い放つと、秋山先輩とやらの敵意剥き出しオーラが消えた。


「なるほど、そういうことか」


 爽やかな笑顔になり若干引く。

 でかい猛獣に喰われかけた小動物のような、殺気で押し潰されかけた為、寿命は縮まった気がした。

 

「夕陽、先に言えよ、勘違いしたじゃないか」


 ストレートに彼女に言うなし!


「え?うーん、ごめんごめん」


 よく分かっていない葉柴先輩はニコニコしながら秋山先輩に謝った。

 この2人、誰も居なければ絶対ベタベタだろうな。


“『孝也君、変なの。でも好きー!』”

“『シメるとこだった。夕陽は俺のなんだからな』”


 シメるとか怖いんですが。

 殺されずに済んで良かった良かった。

 その後は風紀委員からの提案として、今年の図書委員の文化祭での出店場所を毎年隅に追いやっていた所を、目立つ所へ移動出来ないか検討してもらう運びとなった。


「じゃあまたね孝也君♪」

「またな夕陽」

「「失礼しました」」


 生徒会室にいたのは約30分。

 廊下の窓から見える秋の空はどこまでも高く、暗くなる時間が早まった気がして、日の短さを実感した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る