第12話 面倒事が増えたような

「あの!」

「はい?」


 教室に戻る途中で俺は立ち止まる。

 女子に呼び止められた。

 小柄で小動物のように見える。

 控え目そうではあるが、意志は強いような感じはした。

 目がくりっとして大きく、その目を活かしたように整えられた顔は、まるでアイドル向きというか、お人形のようにも思える。

 この子は絶対モテている。それは何となく分かる。

 可愛い見た目だからな。

 髪なんかサラサラしてそうで艶もあり、丁寧に綺麗にしているのだろう。

 そりゃあ腰辺りまで伸ばしているくらいだからな。

 さて、心の内はなんだろうなと、自分から把握しにいこうとしたが…。


 あれ?全く、ない?


 無、だった。

 一瞬でも伝わる時は伝わるはずなんだが。

 ブレていないのか。


「あなたが篠宮しのみや、さんですね?」

「あ、はい…」


 何故俺のことを。体育祭で一時目立ったから?

 いやいや、あれくらいで覚えられる程度ではない。

 たかが体育祭、一瞬の出来事だし。

 だが、世の中にはその一瞬だけで記憶してしまう凄い人はいる。

 なんだか怖くなってきた。早く帰りたい。


「お時間ありますか?」

「えっ?」

「お、お願いします!!」


 何をお願いされているのかさっぱり分からなかったから、とりあえず時間はあると伝えると、「付いてきて下さい」ということで、彼女の後ろを着いていった。

 平和に過ごしていたのに、このまま2学期が終わると信じていたのに…嫌な予感しかしないなと心の底から思った。



「ようこそ!まあ寛げ寛げ!」


 パイプ椅子に座り、目の前にいる学校で1番有名な人と対面していた。

 ここは風紀委員が使っている3階にある多目的教室。


「いやー、話してみたかったわ!」


 豪快に笑うこの先輩。

 風紀委員の委員長、葉柴はしば夕陽ゆうひさん。

 ショートボブ、赤縁の眼鏡、制服には乱れはなくビシッと着こなしている。

 キリッとした目には力が宿っている。

 心の内はというと。


“『体育祭で見つけた原石が目の前に!何を話そうかな♪』”


 原石ってどういう意味だよ。


「あの、何で俺は呼ばれたんですか?」


 よくぞ聞いてくれた!と言わんばかりに、ドヤ顔で葉柴先輩はこう言った。


「君、体育祭の後の片付けでみんなをまとめてスムーズに終わらせていたじゃない」

「ああ…」


 何だアレか。

 体育祭の後片付けで、俺はいなかった学級委員の代わりに指示を出して全体を動かしていた所を見ていたわけか。


「つまり、何が言いたいんですか?」


 恐る恐る聞いてみた。


「それはだね!」


 ウインクしてから先輩は「文化祭の人手不足を解消する為に!」と言って、人差し指を俺に向けてきた。 


「君に手伝ってほしいのだ!文化祭準備期間から終わった後まで!」

「えっ…」


 何だと…つまりそれは…。


「雑用係?」

「そうともいう!」


 テヘッ♪なんて可愛い仕草を決めた先輩。

 俺は頭を抱えた。


「あの、俺、図書なんですけど」

「お?」


 図書委員の俺が風紀の手伝いなんておかしいだろう。

 てなわけで、この話はなかったことになると確信していた。

 なのに…。


「図書か!なら風紀と図書にとってwin-winの関係を築こうか」

「あれ?」


 先輩は「文化祭の時、いつも図書の古本市場は隅だから」とかなんとか、ぶつぶつ言い始めた。

 おい、俺は、どうなるの?


「すみません…」

「あっ…」


 お茶を持ってきた、俺を呼び止めた女の子。


「ありがとう」

「いえ、こちらこそ、うちの先輩が…」


 申し訳なさそうな顔だ。


「いつもあんな感じで、ガンガンいく感じでして」

「なるほど」


 困った人の補佐は俺は嫌だなと思った。

 可哀想に、君。


「ところで名前は?俺は篠宮 宙弥ひろや

「あっ…えっと…葛原くずわら美穂みほ、です」


 控え目に話した葛原さん。


「2年だけど、同じかな?」

「はい、私も2年です」


 同い年か。なるほど。


「…って聞いてるの!?2人共!!」

「「はい!!」」


 突然、大声で呼んだ先輩の声に、俺と葛原さんはびっくりした。


「全く!最初から言うけど!」


 この後の話は次に続く。

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