第10話 分かってはいたが、ここまでくるとは思わなかった

「痛…ヤバい…」


 体育祭の次の日。筋肉痛に苦しんでいた。

 分かってはいたが、ここまでくるとはな。

 まあ、運動した後に筋肉痛がその日の内や次の日にくるのは、体はまだ若い証拠と聞いたことがある。

 部活していなくても大丈夫だったが、筋トレくらいは普段からしとけば良かったなと後悔する。

 治まり次第、ぼちぼち軽い運動はしてこうと思う。

 スマホをなんとなく見ると雨宮あまみやさんからメッセージがきていた。


『体大丈夫?』


 エスパーかよ。

 何でもお見通し過ぎて若干引く。

 が、心配してくれて、気にかけてくれているのは有り難いことだなと思う。


『筋肉痛だけど大したことはないよ』


 返事をした。すると秒で返ってきた。

 レスポンスは早い時は早すぎて驚きものだ。

 竜二りゅうじなんて俺が寝ている時にメッセージよこすからな。

 アイツはきっと彼女とイチャイチャメッセージして夜更かししているらしいからな。

 羨ましくはない、疲れ過ぎて死ぬんじゃないかと思ってしまう。

 だから俺は恋人なんてまだいらない。

 10代は自分の時間を大事にする。

 省エネで突っ走るんだ。

 その方が平和に平凡に生活が出来るのだから。



雨宮 優希子ゆきこ sid


「はぁ…好き…」


 溜め息をつくくらい、私はうっとりしていた。

 先日の体育祭で撮った宙弥ひろや君の写真。

 数百枚も撮っていた。

 控え場所にいる彼の様子、幅跳びをする彼の様子、移動の時、リレーの直前など。

 リレーの動画は何百回も再生してみている。

 そして、数枚の集合写真。

 唯一、昼食の時はさすがに無理だったから、心のカメラに焼き付けた次第。

 でも、あの時が1番幸せだったなと思う。

 2人きりという特別が、体育祭の思い出No.1になっているのかもしれない。 

 心残りは唯一つ。


「ツーショット…」


 勇気は出なかった。

 ポスッ…。

 クッションに顔を埋めた。

 こんなに好きなのに、伝わらないもどかしさ。

 仮に伝わっていたとして、ウザいかな。 

 こっそり撮った写真がいけないなら数枚は厳選して削除する。

 リレーの動画はさすがに削除しないけど。

 焦りはしていない、でもこの先ライバルが現れてもおかしくはない。


「早く振り向いてよ…」


 胃袋掴めば近道と思っていたのに読み間違えたからなぁ。

 先は長そうだ。頑張ろう。 

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