第9話 体育祭 Part4

「はぁ!?」

「頼む、助けてくれ!」


 立間たつまの左足首は包帯で巻かれていた。

 というのも、騎馬戦で落ちてしまい怪我に繋がったとのこと。

 そしてクラスで選抜したリレーに出場が出来なくなったわけだ。

 出れないから他の人に交代するということで、何故か白羽の矢になった俺。

 意味が分からなかった。

 何故、俺なのか?


「立間、何で俺なんだよ?他にいるだろう、足が速いやつ」


 立間は眉間に皺を作って俯く。


「誰も出たがらなくてさ」


 何だよそれ、ますます意味が分からない。


「俺、嫌なんだけど」

篠宮しのみや、中学まで運動部だったって聞いたけど」


 ギクッ…。誰だよ、立間にタレコミしたのは。

 確かに運動部に所属はしていた。

 補欠だったけど。

 だが、陸上部ではない。

 だから、役には立たんわけで。


「篠宮君」

雨宮あまみやさん」


 久尾くおさんと一緒にきた雨宮さん。

 ちょっと潤んだ瞳で俺を見つめている。

 その心はというと。


“『走ったら絶対スマホで撮影して永久保存したいから、推薦して良かった!』”


 お嬢さん、余計なことをおおおおお!!

 思い出した。雨宮さんに喋ったんだ。

 やり取りするようになって、部活の話になって、その流れで俺は言ったんだ。

 それで今、この状況になっている。

 とんでもない伏線回収だ。


「篠宮君、救世主になって、お願い!」

「あっ…いや…」


 渋った。

 すると、雨宮さんの隣にいる久尾さんがギロリと俺を睨んできた。


「ビリになっても誰も責めないし、やれよ」


 は、迫力が…。

 数十秒考える振りをして、意を決した。


「分かった、誰も責めないなら走るよ」


 どんな結果になっても知らん。

 どうにでもなれ。

 誰も文句を言うな。


「ありがとな篠宮!!」

「良かったね立間君!!」


“『やったー!!応援するぞー!!』” 


 心の中で怒り、表では溜息をついた。



「はぁ…はぁ…」


 本気で走った。たかが100メートル、されどである。

 結果はというと、アンカーの結城ゆうきが「おしかったー、悔しいー!」と大きな声で言っていた。

 すまんな、越されてさ。

 俺は第一走者だった。

 途中まではリード出来ていたが、次の人に渡す手前で逆転されてしまい2位でバトンを繋いだ。

 そして2位のままアンカーの結城はゴールしたのであった。


「ありがとな、立間の代わりやってくれて」

「べ、別に大したことは」

「いやいや、大健闘だよ」


 結城は見た目はマスコットのような朗らかな性格で、みんなに頼りにされているリーダー的存在。

 本当に良いやつだ。


「あとでジュース奢る」

「いらないよ」

「まあまあ、そう言うなって」


 気前の良いやつだなと思った。

 他の2人からも労われてしまった。

 控え場所に戻ると拍手で迎えられた。

 雨宮さんが視界に入って来ると“『惚れ直しちゃった』”と言っていて、更にちょっと疲れた気分になる。

 怪我をした立間は「みんなごめんな」と謝ってから、俺に「篠宮、陸上部来ないか?」と誘いがきた。

 が、俺は「悪い、興味ない」と言って断った。

 帰宅部が1番さ。楽だからな。


 こうして最後の種目のクラス対抗綱引きをして体育祭は閉会式へ。

 うちのクラス順位は3位だった。

 綱引きで巻き返しは叶わなかったようだ。

 なにはともあれ、楽しく愉快に体育祭は終わったのだった。

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