第8話 体育祭 Part3

「体育祭を開催致します!」


 生徒会長の開会宣言で体育祭の幕が上がった。

 各学年ごとの100メートル走から始まり、それから玉入れや騎馬戦、俺が出た幅跳びと細かい種目をこなしていった。

 幅跳びの結果はダントツビリ、竜二りゅうじは3位になっていて、ちょっと悔しくなった。

 今は昼休憩だ。

 雨宮あまみやさんと中庭にいて2人きり。


「はい、これどうぞ」

「…」


 頬をほんのり赤く染めて、照れくさそうに、差し出された2段弁当。

 自分で弁当を作って持っていこうとは思っていたが、体育祭が近づくにつれて、彼女の心の声が凄まじかった。

 久尾くおさんと2人で教室で昼食をとっていて、俺も教室で竜二と一緒に弁当を食べていたから自然と聞こえてきたわけで。


“『美味しく出来たからこれは採用!』”

“『これはイマイチかな。もう1回練習してダメなら止めよう』”

“『上手くいった唐揚げ、美味しい!男の子って揚げ物好きだからきっと宙弥ひろや君も好きかな?』”


 揚げ物は好きでも嫌いでもないが、1つだけだといいな。

 てなわけで、結局作らず手ぶらできた。


「忘れてきたから有り難いよ、ありがとう」

「どういたしまして!」


 早速弁当箱の蓋を開けてみた。

 彩り豊かでなんか美味そうに見えた。

 生の野菜はなくて一安心。

 野菜炒め、蒸したブロッコリー、冷凍であろうミニハンバーグと唐揚げが1つずつ、ちょっと焦がした玉子焼き、そして赤いウインナーが2本。

 下にはご飯がびっしりと隙間なく詰められていて、真ん中に梅干し、周りに胡麻がふりかけられていた。

 まずは食べてみますか。


「いただきます」


 なんとなく玉子焼きから食べた。

 優しい甘さが口に広がった。


「美味い」

「本当に!?」

「うん、本当だよ」

「ありがとう!」


 料理は上手なんだな。関心した。


「普段から料理するの?」


 自然と口にしていた。


「親が共働きだから、いない日は作っているくらい」

「へぇー」

篠宮しのみや君は?」

「週に2、3回は作ってるよ」

「凄いじゃん!」

「いやいや、普通でしょ」


“『得意料理って何かな?食べてみたいなー』”


 絶対振る舞わんから。

 毒づきつつも、会話が楽しくなってきたし、料理について語り合いながら昼休憩を過ごした。


「ごちそうさま。本当に美味しかった、ありがとう」

「どういたしまして」


 弁当箱を返した時に触れた手と手。

 とっさに雨宮さんは離した。

 手が触れただけで顔は真っ赤だ。

 恋しているんだな。うーん…。

 応える気はさらさらないから申し訳ない気持ちになる。


「あの…はい」

「あっ…ありがとう」


“『ドキドキしちゃったー!落ち着け私!』”


 笑いそうになるのを堪える。


「さて、早く行こうぜ」

「う、うん!」


彼女にとっては幸せな一時、俺にとってはお腹が満たされた一時となった。

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