第6話 体育祭 Part1

 体育祭というイベントが近づいていた。

 体育の時間は体育祭に向けての練習である。

 俺は全員走る100メートル走と幅跳びのみ。

 楽したかったから。

 高校でも100メートル走をやるなんて思わなかった。

 それはさておき、大勢の場所ほど死ぬほど嫌だが、こっそりイヤホンをつけていれば耐えられる。

 まずはなしでいくが、限界がきたらその時はその時。

 毎年切り抜けてきたから大丈夫であろう。

 それにしてもだ。


“『もっと早く走れよ!』”


 騎馬戦の練習している3人のうちの乗っている方が怒っている。


“『片付けだりー』”


 面倒そうにハードルを片付けしている男子の呟き。


「「「キャーッ!すごーい!」」」


 と言っている女子達。

 黄色い声援の先には同じクラスの立間たつま 寿史ひさしがいた。

 学校一のモテ男で、声援を送る女子達に優しく微笑んでいる。

 その心はというと。


“『俺のどこがいいんだか』”


 意外と毒を吐いていた。


 一方の女子達はというと。


“『私に向けてだわ!』”

“『目の保養…』”

“『本当にカッコイイ』”


 ふーん、と思っていると。


“『宙弥ひろや君は私にとって1番!誰も惚れていなくて良かったな!』”


 走る練習をしていた雨宮あまみやさんの心を読み取った。

 止めなさい、俺と立間を比べるな。


「イケメンは違うな」

「だな」


 俺と同じ種目に出る竜二りゅうじが話しかけてきた。

 竜二、イケメンだって毒づいてんぞ。なんて言えない。


「さて、そろそろ終わるしやめるか」

「うい」


 俺と竜二は練習を切り上げた。


 俺は平凡にのんびり練習しているが、当日はとんでもなく働かされることを、この時の自分はまだ知らない。



「はぁ!?」

「頼む、助けてくれ!」


 何でだよおおおおお!!!!



篠宮しのみや君!」

「おっ!?…な、なに?」


 トイレから出ると雨宮さんが待ち構えていた。 


「体育祭の時、誰かとお昼ごはん食べるよね?」


“『宙弥君とご飯食べたいなぁ』”


 あなたには久尾くおさんがいるだろうに何で。

 てなわけで「久尾さんとはご飯食べないの?」と聞いてみる。

 すると「先約がいるみたいでね」と言って苦笑い。

 心のうちはというと。 


“『先約がいるって言えば何とかなるんじゃない?って想良そらが言っていたから大丈夫!』”


 まさかの久尾さんのアドバイスを信じての行動かよ!

 はぁ…とため息が出そうになるのをぐっと堪える。

 竜二は彼女と一緒だろうから事実上フリーではあるが、重たいんだよな雨宮さんの心。

 耐えきることは出来るが、午後はヘトヘト精神だろうなと思うと気が重い。

 でも断る理由はないからな…。

 悩んだ末に出した結論は。


「分かった、約束している人いないし良いよ」


 逃げ切る自信も嘘をつききる自信もなかったから、彼女のお願いを受け入れた。

 すると目に輝きが宿り、嬉しい幸せがじわりじわりと伝わってきた。


「ありがとう篠宮君!当日よろしくね!」


“『よーし!体育祭に向けて料理の特訓しよっと!』”


 えっ…マジかよ…。

 頭を抱えたくなる気持ちを抑えた。 

 とりあえず、今の心の声は聞かなかったことにしよう。

 うん、そうしよう。

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