第4話 再会は突然に

 外出する時は常に音楽を聴いている。

 音量は低めで。車や自転車の音が聞こえるように。

 ワイヤレスイヤホンを使って、サブスクで音楽を聴くのだ。

 すると、すれ違う人達の心を聞くことはない。

 本当に疲れるのだ。

 ネガティブな言葉しかないからな。

 今の世の中の生きづらさがひしひしと伝わってくる。

 社会人になりたくはないな。そう思ってしまう。

 だから猶予と言われる大学進学を希望している。

 親は直ぐに了承してくれた。

 アルバイトをして、親にあまりお金で困らせないようにはしようと思っている。

 生活費くらいは稼がないとなということだ。

 今はスーパーに買い物に来ている。

 買い物はわりと好きだ。

 いろんな商品を眺めるだけでも面白いと思っている。

 知らない調味料はつい買ってしまうし、期間限定の商品と割引シールは惹かれる。

 そんなこんなで目的の物をカゴに入れ終えてレジに並ぶ。

 セルフレジが導入されてからは、セルフを利用するようになった。

 話さなくて良いし、それこそレジ担当の店員の心の声を聞くこともなくて楽だから。

 セルフレジを発案した人には感謝しかない。


「次の方どうぞ」


 見守りの店員が2番のレジに俺を誘導した。

 セルフレジで会計を済ませて、マイバッグを持ってセルフレジのエリアを出た。


「ありがとうございました」


 どういたしまして、心の中で呟く。

 スーパーを出るとやわらかな風が吹いていた。

 心地良いな。優しい気持ちになる。

 さて帰ろう。としたその時。


篠宮しのみや君…だよね?」


 聞こえてきた方向を見ると、女の子が俺を見つめていた。

 イヤホンを外して、頭の中で考える。誰だろう。

 暗めの赤みのある髪色でボブヘアー、整った目鼻立ち、眼鏡をかけている。

 記憶を辿っていくと、あっ…思い出した。


金澤かなさわさん?」


 彼女の表情はパッと明るくなる。


「そうだよ!」


 嬉しそうに駆け寄って来た。

 そして聞こえてきた彼女の心の声。


“『覚えていてくれて嬉しいなぁ』”


 ゾワッ…背中が冷えた気がした。



 近くの公園に向かい、ベンチに並んで座った。


「高校生活は楽しい?」

「まあまあかな。金澤さんは?」

「私もまあまあ」


 彼女の名前は金澤 結芽ゆめさん。

 小学3年生の時に隣のクラスに転校してきた女の子。

 中学まで同じ学校で2年と3年の2年間だけ同じクラスだった。

 控えめの大人しい性格で、頭は良く、学年上位に名を連ねていた。

 だからレベルの高い高校に進学した。

 俺は地元の身の丈に合った高校に進学したから、彼女とは住む世界、見る世界は違うわけだ。

 じっくり話したことはない。

 ただ、席替えで隣同士になった時だけ話はした。

 話していた時の記憶として印象に残っているのは、他愛ない話をしていた時に1度だけ聞こえてきた心の声はこう。


“『やっぱりカッコいい…』”


 彼女からは発信すらなかった心の声を、この時に初めて聞いたから、ん?と思った。

 他の男子に対してだろうと思い、彼女の視線を確認しようとしたが、どう見ても俺に向いていた。

 その時に嫌だなと思った。

 嫌な予感のような。

 それを機に距離を取りながら過ごした。

 が、あれ以来何もなかった。

 だから安心はした。


 そして現在。


「篠宮君、彼女はいるの?」

「えっ」


 恋愛話がきた。何故、聞いてきた。


「いないよ」


 正直に言った。警戒は強まる。


「そうなんだ、へぇー」


 おっ…?!

 顔に出ないように平静を装う。


“『彼女なし、よし!』”


 何がよしだよ!?

 心の中でツッコむ。

 喜びの心は伏せて、表向きは自然体の笑顔だ。

 女子って時に女優みたいになるよなと思う。

 男子には出来ない難易度高めのことで、表と裏の真逆を上手くやってしまうのだから。

 俺はとりあえず帰ろうと思い出す。

 すると公園の出入り口に人影を見つけた。

 良く観察するとこっちを見ている。

 まさか、と思った。

 断定は出来ないが、とりあえずここを離れよう。


「悪い金澤さん、帰らなきゃなんだ」

「えっ?そうなの?」

「またな!」


 自然ではない流れだがそんなことは関係ない。

 帰りたい気持ちには変わりない。

 この場から離れるべく走り出すと「待って!」と呼び止められた。

 予想はしていたがここは無視をして「急ぎなんだ!ごめん!」とだけ言って公園を後にした。

 公園を出る時には誰もいなかった。

 ちょっとだけ怒りの感情が湧いたが、グッと抑えた。

 全力疾走し曲がり角を曲がってようやく足を止める。


「はぁ…はぁ…」


 運動不足を実感する。疲れた。

 この後はゆっくり歩いて帰宅した。

 金澤さんには悪いことをしてしまった、また会えたら謝ろう。

 そして、出入り口に居たであろうに確認をしようと思った。



金澤結芽 sid


「行っちゃった…」


 取り残された私。

 久しぶりに会った篠宮君は、やっぱりカッコイイと思った。

 小学校の時にクラス間の交流があって、その時に彼を見てトキメイた。

 中学で初めて同じクラスになった時は嬉しかった。

 席替えで隣同士になった時なんて浮かれそうになった。

 話しただけでドキドキもした。

 でも悟られないように感情を押し殺して接していた。

 一瞬ぐらりとしたこともあったけど我慢した。

 バレンタインに合わせてチョコを渡すことすら出来なかった。

 そして現在、連絡先交換が出来ずに彼は帰ってしまった。

 悲しくなる。

 またいつか会えるかな、そんな期待を抱いてベンチから立つ。


「私も帰ろう」


 足早に公園を出ると、出入り口に見知らぬ女の子がいた。

 泣いていた。

 どうしたのかな、と思ったが声を掛けることをせず、私は帰路を歩いた。

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